Their story ≫ 第四幕
廊下にて嘆息
いやあ、随分と、気に入られちゃったもんだねえ。
苦笑しながら蒼が言えば、七草はそうだねぇ。と、笑っている。
どうにかしてあの場は切り抜けられたものの(方法については思い出したくないために、割愛)鼓浦だけは逃げる事が出来ず、あの場に留まっている。
誰もいない廊下で、蒼は呟いた。
「―――――彼って、マゾだったの」
「さぁ?どうだろぉ」
人格崩壊起こしちゃってるってことは、少なくとも十夜が本気出したってことだろうけど。十夜も、程々にしておけばまだ追いかけられずに済んだかもしれないのに、びっくりだね。
飽く迄も仮定の話を蒼は呟き、七草はそれに同意した。
笑いながら、七草が言う。
「特別棟<ここ>に来れちゃう辺り、素質はあった。って、ことなのかなぁ」
「………うはあ」
呆れた様な声を蒼は出し、七草は楽しそうに笑った。
「それにしても大丈夫かな、十夜」
「平気だよぉ」
なんてったって、十夜だしぃ。
その言葉に、蒼はそんなもんかと頷いた。
正直なところ、鼓浦の事は七草の方が知っている。
中等部からつるんでいた二人の間に自分が何故、おさまってしまっているのかその原因こそ分からないものの、クラスメイトに感謝されているあたり彼等の間には何かしらあったらしいが、詳細を尋ねたことはない。
そしてこれからも、それはないだろう。
「―――――きぃちゃん」
「なあにぃ?」
「あー、えーと、」
聞かなくても分かっていることを聞くのは気が引ける。
言い淀んでいた蒼を見たからか、七草は苦笑する。
「変な蒼ちゃん」
そのまま、手を伸ばされ、気付けば蒼は、七草の腕の中におさまっていた。
「やっぱりもったいないなぁ」
「………………おい」
どうして急にこうなってしまったのかと尋ねる事も出来ず、居た堪れない思いを抱きながらも、今朝の事で借りを作ってしまった手前、強く出る事も出来ずに、蒼は、そのままの状態でそっと、息を吐いた。
2013.02.27
2018.01.18