Their story ≫ 第三幕
誰かと誰かの会話
約束したわけではない。ただ、その場所に行かなくてはいけないことは、決められていた事だった。予め、決まっていた事だった。
「にしても、暗いな」
夜目が利いて良かった。そんな呟きを漏らしながら、彼は道を進む。誰にも見つからないように、誰にも捕まらないように。細心の注意を払ってその場所に辿り着いた少年は、先客がいたことに多少なりとも驚きながら、何処かで、そう思っていたために、すぐに納得した。
「……………久しぶり、」
音もなく近付いたにも関わらず、彼に気付いた影はそう言い、振り返った。いつもの聴く者を不快にさせる大きな声ではなく、静かで、落ち着いた声でそう言った声の主に、彼は答える。
「そうかも」
「そうかも。じゃなくて、そう、なんだよ」
この場所も、大分久しぶりだ。いつもとは異なった、静かに落ち着いた様子で話す彼はある意味、異様だった。やがて声はごめん。と音を紡ぎ、謝られている理由が分からない。と、彼は答えた。
「これを夢だと思っているから、起きたら忘れてしまう」
此処で話したことを。そう言われ、彼は少しだけ考える様にした後、人間味のない、何の感情も滲んでいない瞳で彼は影を見つめ、答えた。
「別に、構わないよ」
「――――――、」
「どうかした?」
「名前を、呼ぶ資格がないから」
ああ、そんなことか。そう思ったものの、ソレにしてみれば余程、重要な問題らしい。彼はそれならばそのままでいいと思いながらも、これだけは伝えておかなければならないと、口を開く。
「―――僕個人としては、君の事を恨んでいるわけでも、嫌っているわけでもない。それに、全部覚えていると思っていた僕ですら、多少の事を忘れていたから、」
君が、思い出せないのは、忘れてしまっているのは仕方のない事だ。
そう言った後、薄らと笑みを浮かべる。最も、月明かりしかないその場所では相手に認識されたかどうかは分からない。
「だけど、いつか終わる」
「うん。そしてそれは、」
「俺が、オレの罪を、罪であると認めた時」
「気付いてたんだ」
彼の言葉に返されたのは忍び笑いだった。それはもう、何度も繰り返せば流石に。答えた声は不意に、制止した。気付けば、ソレは空を見上げている。
「綺麗だ」
「…………星?月?それとも、」
「全部。綺麗だから、だから」
「分かってるよ」
「そう言うと思った」
久しぶりに話せて嬉しかった。今度は。
囁く様に告げられた言葉は最後まで彼には届かず、風に乗って掻き消えた。
2012.10.09
2017.11.28
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