Their story | ナノ


Their story ≫ 第三幕

秘境にて遭遇 其ノ二

早くこの場所から離れた方が良いと思った、蒼は、言う。

「もどろっか、みぞぐっちゃん」

その言葉に驚いたのか、溝口に凝視される。
蒼はただ、笑った。

此処で何があったのか、きっと溝口は知らない。
仮に知っていたとしても、彼の求めている感情を、自分は抱けてはいないだろう。

「蒼…?」
「んーん。なんでも」

行きとは逆に、溝口の手を引いて、蒼は歩き始める。
不思議そうにしながらも、自分に手を引かれたままついてくる溝口を横目で見て、控えめな声を発てて笑ってしまった。
笑われたことに気付いたのか、何かを言おうと開かれた溝口の口は、結局、閉じられた。

「ねぇ、みぞぐっちゃん」

いつかの話の続きを、しようか。そう言った蒼の言葉に遮られて。
その言葉を聞いた瞬間、慌てだした溝口を見て、蒼は首を傾げた。

「いい、いいよ!聞きたくない!!王道が実は非王道でアンチ王道でなんていうかみんなが蒼たんのこと好きになり始めてるっていうか興味持ってなんていうかあああああああとにかくやだ!総受けになってくれるならなってくれてもいいけど!!七君かつづみん相手じゃないとゆるせn「ああ、そういう人だったね……」えっ」
「気にしないで」
「えっちょ、逆に気になる!!どういうことなの!?えっ!?!?」
「みぞぐっちゃん、声でかい、うるさい」

嗚呼、なんだかもうよく分からないしどうでもよくなってしまった。
蒼は思った。
どちらにしても、あの場所から離れられて良かった。
同時に、ある事実に気付く。

(今回は参加しない、って噂、嘘か。そうだと思ったけど)

少し前に学園内に出回っていた噂の真偽が、こんな所で出てくるとは。
考えながら溝口の様子を窺えば、相変わらず挙動不審に相変わらず蒼は溝口の手を引きながら、歩く。
現実逃避をしたかった蒼は、そこで気付かなくても良いことに気づいてしまった。
溝口の身長は蒼より6センチ程高いと情報では知っていたが、確かに、高い。
そのことに気付いた瞬間、蒼の口からは言葉が漏れていた。

「憎い………」
「えっ!?」
「みっつん、身長分けてよ、頂戴よ。数センチくらいくれたっていいと思わない。思うよね。153センチに数センチ分けてくれた身長たせば、いいと思うんだよね、僕的に」
「え、なに、どういうこと!?蒼たんなにそれ理解できない!僕ニハ難シスギテ理解デキナイヨ!!!」

挙動不審になり始めた溝口を振り返り、その背後に何かの影を見たものの、見ないふりをした蒼は、言っていないことすべてを覆い隠すかのように、微笑んだ。

2012.10.06
2017.11.25


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