Their story | ナノ


Their story ≫ 第三幕

秘境にて遭遇

黄昏時、もうそろそろ今日の催しも終わる頃だろうと考えながら、蒼は歩いていた。
程々に行事に参加し、程々にサボっているが、楽しむことは出来ている。

「あっ!」

もう少しで、行事終了時間だと腕時計を見て思っていたところで、かけられた声に視線を上げれば、同室者の姿があった。

「なにしてんの、蒼たん」
「みっつんこそ」

本当に今日は、よく人に会う日だ、と、蒼は思った。
笑っている溝口に、行事だからそれも当然だと、思い直した蒼は微笑む。

「脱走〜」
「ああ、そう」

ばっちりがっちり行事に参加していると思われていた溝口が今この場所にいるのは、本来ならあり得ないことなのではないかと考えていた蒼は、存外冷めた目で溝口を見つめていたらしい。

「やだなぁ、蒼たん!そんな目で見ないでよ!」

満、照れちゃう!と、語尾に音符か星マークでもつきそうな調子で溝口は言う。
そんな溝口に心の底から冷たい視線を向け、蒼は笑った。

「………ごめん、ごめんなさい。謝るから、やめて、おれの心、折れちゃう」

それが思いのほか、冷笑だったのか、溝口が泣きそうになりながらそう言った。

「――――――ほんとに、無意味」
「何が、無意味?」
「この行事、が」

無意味なものなんて、なくしてしまえばいいのにね。
さりげなく毒を吐く蒼に、溝口が笑いながら言った。

「そう、無意味なものでも、ないかもしれないのに?」
「…何か、知ってそうだね、みぞぐっちゃん」

蒼の言葉に、溝口は笑みを深めるだけで答えようとはしなかった。
何も言うつもりはないのだろうと判断し、蒼は溜息の後、溝口に尋ねる。

「それで?これからどうするの、君は」

いつの間にか握られていた手を振りほどくこともせず。

「…………なんで突然他人行儀になったの…理解できない、酷いよ蒼たんっ」
「なんとなく。ヒドイノハアナタノホウデス」
「わーいいみふめーい」

くすり、と笑った蒼を見て、溝口が柔らかい笑みを浮かべたことに、蒼は気付かない。

「おれは、蒼の味方だから、」

突然なんだという表情を浮かべた蒼は、それでも、次の瞬間には笑って、溝口に憎まれ口を返していた。

それにしても、溝口はここぞとばかりに、転入生たちを観察しているとばかり思っていたのに、これはどういうことだろうか。以前は王道がどうのこうの言っていたが、その少し後、アンチ王道…非王道……それもまた、イイ!!とか、なんとか言っていたはずなのに。

そんなことを考えながらも、溝口に手を引かれるまま、蒼は彼の後に続いた。
徐々に景色が変わっていくにつれ、何処に連れていかれようとしているのか察してしまった蒼は、思う。

(困ったなあ、これは)

どうするべきだろうかと思ってはみたものの、結局のところ自分が予想した通りの場所に着こうと、そうでなかろうと。蒼自身にとっては、関係なかった。

「みぞぐっちゃ…」
「着いた!多分ここだ!!」

其処に辿り着いた瞬間、嬉しそうに言う溝口に反して、蒼は彼が振り返るまで、顔に無表情を張り付け、その場に立っていた。
表情とは裏腹に、面白い。と、蒼は思う。
誰が何に気付いたのかは分からないが、この場所をわざわざ同室者に案内させるという事は、少なからず何かを知っているということだと。
限られた、本当に限られた人しか知らない場所が、学園にはある。
其処には過去が蓄積され、かつて、記憶に克明に残る出来事が起きた場所でもある。

(どこで、何に、誰に、気付かれたかな……)

また、一度その場で何かを体験した者しか、その場所に行くことはできない。
無意識に、無為的に辿り着くその場所を、知っている上に、且、明確な地図を記すことが出来る者は―――、

「蒼たん?」
「ねえ、みっつん。それ、誰からもらった?」
「………………………え、ぇとぉ、」

即答、されなかった事実を面白く思った蒼は、笑った。
ひどく、楽しそうに、見る者を惑わす笑みを浮かべた蒼を見た溝口は、背筋に走る何かを感じながらも、笑みを崩さなかった。

「蒼…「いいや。答えてくれなくても。大体、分かるし」えっ」

嗚呼、多分僕の声から、温度は消えているのだろう。

思いながら、蒼は溝口を見る。何か拙い事でもしたと思っているのか、余りにも妄想が行き過ぎた時に受けた仕打ちを思い出しているのか、彼は心なしか、青ざめているが、笑みは浮かべたままだった。
真相は溝口本人にしか分からないが、とにかく、蒼は彼の顔色を気にせずに言い放った。

「こんな素敵なとこに連れてきてくれて、ありがと、満―――」

これで、自分が動き出さなければいけない理由が一つ、増えてしまった。そんなことを考えながら。

2016.10.06
2017.11.04


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