Their story ≫ 第三幕
道なき道にて遭遇 其ノ参
ところで、追いかけなくていいの?
そう尋ねた蒼に、今度は七草が首を傾げた。
「和臣のことぉ?」
「そ」
てっきり、話が終わったら追いかけに行くものだと思っていた蒼は、七草がこの場に留まっている事に驚いていた。
「約束、してるんだぁ」
「約束?」
「うん。そぉ」
だから、ね。アイツになってる時は、おれから会いには行けないのぉ。
そう言った七草に、蒼は返す。
「ふぅん」
蒼の興味がないです。と、言わんばかりの態度に、七草は笑った。
「なに?」
「んー…蒼ちゃんだなぁ、って思ってぇ」
「そか」
「蒼ちゃん」
全部済んだら、教えてくれるぅ?と、言った七草に、蒼は返す。
「―――何を?」
その答えに、七草は笑う。
七草でも儚い笑みを浮かべることができるのだと、若干失礼なことを考えながら、蒼は彼の様子をうかがった。
「ううん。やっぱりなんでもないよぉ」
「そう?」
聞かれていることが何についてなのかは、分かっていた。わからないはずがなかった。
それでも蒼は、誤魔化した。
(ごめん、ね。きぃちゃん。誰にも言えない、秘密なんだ)
好きなわけじゃない。嫌いなわけでもない。愛しいわけでもなく、憎いわけでもない。ただ、其処にあるのは絶対的な“約束”だけ。それを違えることは、許されない。他の誰かは許されるとしても、蒼がそうすることは、赦されない。
「何事もなく、おわるといいねぇ」
転入生君。
そう言った七草に、蒼は笑みを返し、話を逸らすべく口を開いた。
「それにしても昨日といい、今日といい。きぃちゃん、今回の企画には参加してないのかい」
此処で蒼の言う企画、とは生徒会が主催するものではなく、特別棟の一部の生徒が主催するものの事である。その事を分かっている七草は、笑いながら言う。
「そう思うのぉ?」
「去年は全く会わなかったのにな、って思っただけ」
笑う七草に、蒼は返す。
「いくら場所が近いからって、会いすぎじゃないかとですね?」
「それはぁ、」
いわゆる、引力、ってやつじゃないかなぁ?おれと蒼ちゃんはぁ、あかーい糸で繋がれてるんだよぉ。
心なしか嬉しそうに言った七草を、蒼は呆れた表情で見上げた。
「きぃちゃん……」
「冗談だよぉ」
にこり、と笑った七草に、そ。と、蒼はそっけなく返す。
「なんだかなー」
「なぁにぃ?」
「もやもやしただけですー」
互いに、言えないことがあるのは仕方のない事だろう。
それぞれの思惑で行動している以上、必要以上の干渉は出来ない。尋ねることは、無意味とも言える。
「ま、がんばって、ね」
「蒼ちゃんもねぇ」
「程々に」
僕は別に頑張る必要なんて、無いんだよ。
心中で呟き、手を振った七草に手を振り返した後、蒼は彼を見送った。
2012.10.05
2017.10.25