Their story ≫ 第三幕
道なき道にて遭遇
行事自体を面倒だと思ってしまった蒼は、結局、サボっていた。
折角紛れ込めるように細工してもらったのに申し訳ないとは思いながらも道なき道を進む。
溝口にいろいろと人によっては気にする内容を言われたものの、大して気にも留めもせず、蒼は嗤いながら歩く。
最も、溝口もそれを分かっていたからこそ、蒼にその言葉を言おうと思ったのかもしれない。
「まだ、か」
夕と夜は、きっとギリギリまで天城を裏切らない。だからこそ、今はまだ自分と彼等が親しい間柄であるという事を知られるわけにはいかなかった。
転入生のみならず、彼の周りにいる人たちにも、知られるわけにはいかない。
自分たちが幼馴染である事を知っている者はいるが、誰も好き好んで自分から関係性を明かすようなことはしないだろう。
(その前に、話せないか…)
そんなことを考えながら歩いていた蒼は、いきなり手首をつかまれる。
「っ!?」
思わず、あげそうになった声をこらえ、つかんできた手の持ち主を確認するために、視線をあげた。
「なんで美形に捕まる率が高いの、今日…」
おかしいだろこんなの。
まったく気配を感じなかったことも、納得できないと思いながら蒼は、視線をあげた先にいた三草を見据えた。
本来なら行事を主催する立場である彼が、何故この場所にいるのか。そして何故、自分のことをつかまれているのだろうかと考えながら見つめれば、やってはいけないことをしてしまったかのように、三草は腕を離した。
所在なさそうに視線を彷徨わせている彼を見て、蒼は尋ねる。
「何か用事ですか?三草クン」
「紀伊、どこ?」
いつもなら転入生の傍にいる三草が、彼の傍にいないのは不自然だ。
「………ああ、」
いつもの剣呑な様は形を潜め、迷子になった子供のような雰囲気が三草を取り巻いていたために、蒼はその考えを改めた。
話し方も態度も、雰囲気も違うとなれば、考えられることは一つだった。
「裏、か」
呟いた蒼は、以前調べた彼の家系とその性質について思い出し、どうしたらいいのかわからない様子で視線を彷徨わせ続けている三草に言った。
そうすれば、ハッとしたように、三草は答える。
「う、ん」
蒼は自分の言葉が肯定されたのをみると、いつになく柔らかい笑みを浮かべた。そのことに三草は気付かない。
「表はあんま好きじゃないけど、裏は割と好きだよ」
半ば呟く様に言い、今度は三草に届く音量で、口を開く。
「きぃちゃんは、一般棟の生徒じゃないってことを話したの、覚えてる?」
幼子に言い聞かせるかのように蒼が優しく言えば、その言葉に三草は首を傾げたが、その後すぐに思い出したのか、控えめにこくり、と頷いた。
きっと、あの時の事があるからこそ、彼は自分に声をかけてきたのだろう。
そんなことを考えながら、蒼は続ける。
「あとね。今の君は生徒会長なんだ」
興味こそないものの、何時必要になるか分からない為、学園に通う人の情報は全て、記憶している。その記憶を引っ張り出し、蒼はそう告げた。
その言葉を聞いた三草は、驚いた様に目を見開いている。
「裏が表で、表が裏、だもんね。厄介だ」
呟いた蒼の声は、三草には聞こえなかったらしい。
聞こえていたところで、説明するつもりのなかった蒼にはどっちでもよかった。それでも、不思議そうに首をかしげている三草を見て、調子が狂うと思ってしまうのは仕方がない事だろう。
「自分の仕事、ちゃんとしないと、きぃちゃんに嫌われちゃうよ」
「やだ、それ。いやだ」
「じゃ、どうすべきか、解るよね」
渋々、という様子で頷いた三草の髪を背伸びして撫で、蒼は笑った。
「大丈夫だよ、君なら出来る」
「―――う、ん」
「思い出そうとすれば、分かるから。もし、分からなかったら如月夕と夜に訊いてみて?」
きっと、答えてくれるよ。ただ、その時は人がいないのを確認してからね。
そう言った蒼に、三草は素直に頷いた。
そうして、七草に嫌われないようにと本来自分がいるべき場所に戻ろうと走り出した彼を見送った蒼は―――、
「あ。きぃちゃんの居場所教えるの忘れた」
肝心な話をしていなかったことに気付いたものの、今更気付いたところで遅い上に、七草の居場所など、何の連絡ツールも持たない蒼が知る筈もなかった。
まあいいかと考えるだけにとどめた蒼は、息を吐いた。
2012.10.04
2017.10.22