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Their story ≫ 第三幕

ホテル外にて遭遇 其ノ二

掴まれている腕を見て、まだ何かあるのだろうかと考えながら、蒼は劉堂を見た。
不思議なことに彼は微笑んでいる。その笑みがどこか、天城に向けている物に似ている気がした蒼は、内心で回避不可能かもしれないと思った。

(嫌な予感しかしない)

起こってしまった事を変える等、出来るはずもない。どうしようもないと諦めて許容するべきかと考えながら、彼の言葉を持つ。
暫くして聞こえてきた小さな声に、どうでもいいと考えながら蒼は答えた。

「べつに、天城と僕だけじゃないと思いますけど」
「どういう意味ー?」
「この学園のそっち側で親の権力は関係ないと思って生活してる生徒は極僅かだろうけど、基本的に特別棟の生徒は、親の権力イコール、自分のモノ。とは、見做していない」
「な、」

驚いている劉堂に、更に蒼は続ける。

「親の七光りを嫌いながら、その親の力を引き合いに出すって、すごく面白い話ですよね。けど、Zクラスは違います。それを認めず、否定する」
「なんで、」

滅多な事でもない限り、Zクラスの生徒と一般棟で過ごす生徒は顔を合わせない。だからこそ、劉堂の反応はある意味、当然と言えば当然のものだった。別段、特別棟の生徒に限らず、一般棟の生徒でもそう考えている者のほうが多いだろう。ただ、その事を伝えてしまっては面白くなかった。主に、蒼自身が。

「Zクラスに属する生徒の能力は未知数。なんらかの事柄に熱中する人が集められている。そしてその“なんらかの事柄”に当てはまった対象を成長させる存在でもある。稀に狂信者、熱狂者もいるけど。学園という施設に通っている、通わせられているというだけであって、あらゆる意味で常識を逸脱した別枠で括られる生徒が多い。だから、ですよ」

あなたなら特別棟のこと、当然知ってるって思ってたんですけど、知りませんでした?
ついでとばかりに、蒼は言う。

「余程のことがない限りZクラスに目を付けられた生徒は幸運だと言える。ただ、今回の場合は別。全く真逆。あの歌の子羊、って。誰の事か分かる?」

そう尋ねた蒼に、劉堂は逡巡した後、蒼が求めていた答えを口にした。
微笑んで、蒼は言った。

「ご名答」
「でも、なんで」
「その質問には答えられないかな。守りたいなら守ればいい。あの哀れな子羊を。学園のルールを知らず、ただ、自分の理想理論を主張する自己中心的な彼の事を」
「どうして、」

その問いかけに答える気がなくなっていた蒼は、答えにならない言葉を返す。

「生徒会役員が学園の一部である特別棟やそれに纏わる事を、知らないのはちょっとまずいんじゃない?」

知らない。で、済ませる事なんて出来ないよ。
蒼は言い、困惑している様子の劉堂を見つめた。
答えが返ってこないために腕時計に目を向ければ、いつの間にか時刻は講堂集合時間に近付いていた。

(そろそろ戻らないとなあ)

思考をまとめようとしているのか、相変わらず動きを止めたままの劉堂を一瞥し、今度こそ蒼はその場を後にしようとする。
掴まれていた場所はいつのまにか離されていた。

「待って、」

手首こそ掴まれなかったものの、再度、蒼は呼び止められる。
何度目だと思いながら、律儀にも蒼は振り返り、劉堂に尋ねた。

「なんでしょうか?」
「傑って、呼んでみてよー、俺のコト」

その内容にどうしてそうなったと思いながら、蒼は答えた。

「次会った時に名前を覚えていたら呼びますね」

にこりと笑ってその場を辞した蒼は、残された劉堂が、こっちの方が面白そうだなーと呟いていたことには気付かなかった。

2012.10.02
2017.10.15


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