Their story | ナノ


Their story ≫ 第三幕

ホテル外にて遭遇

厄介事が片付いたと思った瞬間、別の厄介事が舞い込んでくるのはなぜだろうか。誰かの陰謀としか思えない。そんなことを考えながら、蒼は目の前に現れた人を見つめた。
開口一番、生徒会会計の劉堂だと名乗った相手は、自分の事を忘れられている可能性を少なからず考えていたのかもしれない。

「それで、何のご用でしょうか?」

下手な演技等面倒なだけだと考えた蒼は、そう尋ねる。
さりげなくその場を後にしようとしたものの、それは許されず、手首を握られてしまったために口にした疑問だった。
流石に二度目ともなると加減してくれるらしく、痛みを感じることはなかったが、それでも手首を握られて良い気持ちにはならない。

「用がないなら、戻ってもいいですよね?」
「用なら、あるよー?」

即座に言い返された蒼は、それならばすぐにでも要件を言ってほしいと考えながら、彼を見た。
こんな朝早くからホテルの外を出歩いている人がそう居るはずがないとは思っていても、万が一がありえるかもしれない。
仮に彼の親衛隊に見られたら、どうなるのか考えるだけでも恐ろしい。もしかすると彼は、それを考えた上で接触してきたのかもしれないが。

「前に、どこかであったことないかなー?って、思ってさー」

ていうか君、前如月の双子と一緒に第一音楽室にいたよねー?
その瞬間、一体いつの話をしているのかと考えながら、話に脈略がなさすぎると蒼は思った。

「………ゴメンナサイアリマセン。アリエマセン。第一音楽室にいたことはありますけど」

どう考えても、会えるはずがない。特殊中の特殊な環境下で育った蒼が、劉堂と過去に出会っている事があるはずがない。
最も、そんな中でも如月は例外中の例外であり、鷲澤もまた、例外と言える。今親しくしている他のメンバーは高等部に入ってから付き合いが始まった者たちであり、つまり実質、高等部以前からの付き合いがあり、会った事がある生徒は片手で収まる程しかいない。

「ほんとーにー?」
「はい。本当に」

間延びした喋り方って、聞いてて気持ちがささくれ立ってくる。
そんなことを思いながら、蒼は淡々と答えた。

「こう見えて僕は結構特殊な環境下にいたので、あなたと会ったのは、この前が初めてだと思います」

第一音楽室で僕の事を見かけたと言うなら、その時見た記憶が残っていただけのはなしじゃないんですか?

蒼は尋ね、劉堂の様子を窺った。

「だよねー」

納得してないように劉堂に返され、同意しようとした蒼は、それにしても君その喋り方どうしたのー?と、尋ねられ、天下の会計様にタメ口聞けるわけじゃいじゃないですかぁ。と、にこやかに答えた。

「そうだよねー」
「そうですぅ」

どうしたらこの男から逃れられるだろうかと考えていれば、それを勘違いされたのか劉堂が口を開く。

「あ、別に好きになったとかそんなんじゃないからー」
「それは良かったですぅ」

思い出したように付け加えられた言葉に、蒼は即答する。
答えれば、何故か不思議そうな表情をされた。一体どうしたのだろうか思いながら、劉堂を見れば、君は、と、彼は言い淀んだ。
視線で何か?と尋ねれば、存外に聡いのか、彼は言った。

「君も、輝と同じ、なんだねー」

僕等の権力に興味ないみたいだ。そう言った劉堂を、蒼は嗤った。

「そう思いますか、そうですか」

揃いも揃って何も見えていない人ばかりだと、結局その程度なのだと若干の落胆を知らず、滲ませていたのか劉堂に呆気にとられた表情を向けられた蒼は、表情をつくるのも面倒だと考え、それまで浮かべていた愛想笑いを、消し去った。

「―――――――――、」

瞬間、微かに息を呑む音が聴こえた。
それを聞きながら、これから劉堂が何をしようとしているのかを概ね予想を付けていた蒼は、無駄足にならない様に伝えるだけ伝えておこうと思い、口を開いた。

「一つ、言っておきましょうか。僕をいくら調べたところで、貴方の力では何一つ、分かりませんよ。時間の無駄なのでやめておいた方がいいです」

蒼はそう言い、劉堂の拘束から逃れようとしたが、結局、失敗に終わった。
その瞬間に、厚意を示したのが間違いだったのだろうかと、そんなことを考えた。

2012.10.01
2017.10.07


copyright (c) 20100210~ km
all rights reserved.
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -