Their story | ナノ


Their story ≫ 第三幕

宿泊部屋にて再眠

おかえりぃ。

一草との話を終え、あてがわれた部屋に入った瞬間、眠そうな溝口にそう問われた蒼は、息を呑んだ。
今まで、こんな状態の彼を見たことはなかったと考えながら、蒼は言う。

「………目が怖いよ……みぞぐっちゃん」
「眠いからかもな」

なんか口調まで違うし。
小さく呟いたところで、溝口には届かなかったらしい。

「いつ抜けてったの」
「えぇとぉ…一時間くらい前かなあ?」

どうやら、自分がいつ彼の腕の中から抜け出たかは分かっていないらしい。
その事実に気付いた蒼は、そう答えた。
実際、部屋から出て一草の元へ向かったのは、一時間程前のことだった。
時間を見て初めて、一草のところへ行って戻ってくるまでにそれほど時間がかかっていなかったことに気付く。

「ふぅん」
「……………ゴメンナサイ」

珍しく何も言わずにただ、謝罪した蒼を、溝口は驚いたかのように見つめた。
腰掛けていたベッドの端から立ち上がった溝口に手を引かれた蒼は、為されるがままだった。
下手に抵抗したところで、今の溝口に勝てる気がしない。

「三時間は寝れるな」
「いや、その…」
「もっかい、寝ろ。寝なくてもいいから横になれ。じゃなかったら昏倒させてでも、寝せる」

キャラが迷走どころじゃない、暴走している。
そう思いながら、蒼はその事を口には出せず、溝口に言われるまま、布団にもぐった。

(ムリなんだけどな)

眠れないことは解りきっている。
相手も、それを知っている。
それでも、眠ることを促してくる溝口は、いったい何を考えているのだろうか。
そう思いながら蒼は、どうにでもなれ。と、瞼をおろした。

結論から言えば、蒼はいつもよりは眠ることが出来た。
どこか釈然としない思いを抱えながら林間学校の二日目を迎える

「あーおーたんっ」
「その呼び方やめてくださーい」

名前を呼びながら抱きついてきた溝口を避け、蒼は実は常日頃から思いながら時々口にしていた言葉を再度、口にした。

「けど蒼たんは蒼たんじゃないか。イントネーションちがうんだからよくね?別に青痣のこと言ってるわけじゃないんだし?」
「イヤダ」

そう、確かに、イントネーションは違う。違うが、なんとなく嫌だった。例えるなら佐藤さんが砂糖さんとからかわれて嫌な気分になるような。
そんな風に、蒼は思う。

「そいえば溝口って、Bクラスだったんだね」
「お?」

今更かーい。
そう言いながらも、溝口は笑っていた。

「そうだよ」
「ふぅん」

肯定された蒼は、どうしたものかと、考える。

(面倒なことにならないといーんだけど、なー)

これ以上面倒にはならないであろうことを予測しながらも蒼は、そんなことを思った。
眠ったことによって幾分かすっきりした頭で、溝口に尋ねる。

「今日って、なにするんだっけ」

それもこれも、考えることが面倒になったからだったが、溝口はそれには気づいていないようだった。

「あー、どうだろ?今生徒会でまともに仕事してんのって、双子だけだし…今日の企画は本当なら副会長が考えるべきものだから……」

どうなるんだか、さっぱり。
肩をすくめながらそう言った溝口に、蒼は苦笑する。

「そっか…」

その声に、何を感じたのかはわからない。
溝口は、苦笑を浮かべていた。

「んでも、普通に参加するんだね」

そうして言われた内容に、蒼は首を傾げる。

「僕の事?」
「そうそう」
「そりゃあまあ。それに、紛れ込むのは得意だし、ね」

そういうことじゃないんだけど。
そう言った溝口の言葉は聞こえないふりをして、蒼は小さく、笑み浮かべた。

2012.09.29
2017.04.10


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