Their story ≫ 2
留守番(side.A)
都が自室に入ってことを確認した秋野は、一度は寝ようと自室に入ったが、どうにも寝付けなかった為に、寮を抜け出した。
行事中で学園内の生徒がほぼ出払っているにも関わらず解放されている校舎の屋上に訪れた秋野は、その場で寝ころんだ。
都に名前を呼ばれる都度、心がじんわりと暖かくなっていく感覚に、慣れない。
どう接すればいいのか、戸惑うばかりで一向に考えがまとまることがない。
考えをまとめるために瞼を下せば、人の気配を感じ、秋野は瞼を開けた。
「………はじめまして」
「あ?」
秋野が体を起こし、視線を向ければ見たことがある様なない様な、一般棟にいるとすれば確実に親衛隊が出来ているだろう容姿の男が立っていた。
「君に、お願いがあって」
「………てめぇ、」
行事はどうしたのだと尋ねた秋野に、男は答える。
それを君が言っちゃうんだ。
そう言いながらも、笑いながら、行事している場所、実際はものすごく近くて、実際には学園の裏側だって、知らなかった?と問われ、衝撃の事実に愕然とする。
「何も、しないで」
「………あ?」
「転入生に対して、君は、君からは何もしないで。自分に害が及ぶ場合は潰してくれてもいいけど」
アレを潰していいのは、潰さなきゃいけないのは僕だから。
男は嗤い、そう言った。
秋野は理解できずに、彼の事を見つめる。
確かに、どうにかしようと思って葉加瀬に情報を集める様に頼んだが、実際のところ、どうするかについて、具体的な内容は、考えてはいなかった。
「遠藤都。大切にしてあげてね」
「はァ?」
「よろしく、ね」
彼には、倖せになってほしいから。
そういって去っってったあの男は、結局誰だったのだと、秋野は思う。
言いたいことだけ言い、満足したように去って行った男の後ろ姿を、呆けた顔で見送ってしまったことを悔いながら。
常ならば追いかけ、事情を聞きだすくらいしていたが、不思議なことにそのような気分にはならなかった。
「………なんなんだ、一体」
先ほどの男の言葉が本当ならば、本当なら数時間かけていく場所であるはずの林間学校の実施場所は、本当に、学園の近くであるということになる。
一度、葉加瀬に調べてもらったほうがいいのかもしれないと思いながらも、参加していない手前、そのような面倒なことはしなくてもいいだろうと、秋野は思い直した。
それよりも今は、同室者の事が、気になっている。
「めんどくせェ」
これほどまでに、都を気にしてしまう自分のことも、そんな彼を取り巻く環境を気にしてしまう自分のことも、面倒だと、秋野は思いながら、その場を後にした。
2012.10.23
2017.04.06