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留守番(side:E)

都が林間学校が始まっていることに気付いたのは、放置していた携帯電話を開いたからだった。
心配している内容のメールに、体調は悪くないが今年も参加はできなかったことを残念に思うと返し、画面を閉じる。
そろそろ、何か食べたほうがいいと思いながらベッドから立ち上がれば、めまいを起こした。
一瞬にしておさまったことに安堵しながら、リビングに向かおうとしたところで、あることに気付く。

「…………あれ」

林間学校が始まっていとしたら、おかしい。
都はそう思った。
ここ数日、寮部屋から出ていない都は、外がどうなっているのかは分からないが、秋野がいるのかいないかくらいは、分かる。
時々室内に感じる気配は、秋野のものであるし、それ以外の気配を感じたことはない。

(行ってない、のか?)

考えてはみたものの、答えは一つしかなかった。
林間学校が始まっているにも関わらず、室内に自分以外の人がいる気配を感じるという事はつまり、秋野は林間学校には行かず、学園に残っているという事だ。
結論が出たところで、水分補給と食事を摂ろうと、都は自室の扉を開けた。

「………」
「………………」

扉を開いた瞬間、タイミングがちょうど被ったらしく、同じく自室から出てきた秋野と視線が克ち合い、都は動きを止めた。
秋野も秋野で、動きを止めている。

「…………おは、よ、う?」

とりあえず挨拶でもと思い、そう言った都に、微かに眉を寄せた秋野は、苦笑を浮かべていた。
不思議に思いながら、リビングに向かった秋野の後に続く形で目的地に着いた都は、壁にかけてある時計を見て、何故秋野が苦笑を浮かべたのかその理由が分かり、微かに頬を染める。
これは確かに、おはようの時間ではないかもしれない。外は暗く、時計の短針は文字盤の5の部分を指していた。

「…………滋君は、」
「あ?」
「林間学校、行かなかった、の?」
「あー……、」

気付けばそう尋ねていた都は、秋野が気を悪くしていない様子に安堵しながら、彼の言葉の続きを待った。

「怠かったから」

どうやら、それが彼が此処に残っている理由らしい。
折角だし、行けばよかったのにと都が思っていれば、秋野が続ける。

「それに、お前、調子悪いだろ」
「え……」
「俺がいねェ間に倒れても助ける奴、いねェだろ」

付け加える様にして言われた内容が、林間学校に行かなかった本当の理由なのだろうかと思うと、都は申し訳なさを感じると共に嬉しく思ってしまった。

「おれは別に、」
「別にじゃねーよ」

忘れたとは言わせねェ。
そう言っているかの様な視線で見つめられ、都は言葉を飲み込む。

「しょっちゅう、ぶっ倒れてただろうが」
「なんで……」
「運んだ」
「…あ、と、その、やっぱり、滋君、が?」

四月は確かに環境が変わったことによるストレスからか、体調を崩すことが多かった。
その都度、自分でベッドに倒れこんでいたと思っていたのは、どうやら違っていたらしい。

「………」

答えがないことが、答えなのだろうと思った都は、これまでのことを思い返し、うわぁ。と、声を上げる。
確かに、玄関やリビングで記憶を失っていたことはあった。
それでも、気付けば自分のベッドで眠っていたため、ベッドにたどり着いた瞬間に意識を失ったと、思い込んでいた。

「迷惑かけまくっててごめん、なさい………」
「別に」

ほんとうに申し訳ない。
そう言えば、迷惑じゃねェと返される。
秋野にはそう返されたが、それでも都は、申し訳なく思ってしまった。
話をどうにかして、別の方向にもっていきたいと思った都は、勢いで口を開いた。

「あ、じゃあ、留守番、だね」
「留守番?」

不思議そうにしている秋野を見て、都は微笑む。

「え、とね。歓迎会に参加しない人たちのこと、留守番組って言われてるから」
「………へェ」

知らないあたり、去年は、秋野は真面目に、林間学校に参加していたのだろうと、都は思った。

「熱は?」
「え、と、」
「あるならちゃんと休んどけ」

秋野の言葉に、胸が温かくなったような気がしながら、都は頷いた。

2012.05.04
2017.04.05


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