Their story ≫ 2
処理(side.A)
あの顔は反則だろうと、秋野はその場にしゃがみ込んだ。
心臓が酷く、煩い。今までこのようなことはなかった。
(なんなんだ、一体)
本当に、自分で自分のことが分からない。
最近、どうにも柄にもないことばかりを、している。
都が特別な存在になっていることに、秋野はまだ、自分では気付いてはいない。
着信音が鳴り、画面に映った名前を見て、仕方なく秋野は通話ボタンを押す。
「…………」
『ちょっとなんで無言!?無言良くない!絶許無言!』
「るせェ」
葉加瀬の言葉に、秋野はそう言い、舌打ちすらした。
だからといって、葉加瀬が秋野を怖がることはない。
ある意味、信頼しているからこその言動であると言える。
『ごめんごめん』
「要件は」
おどけたように言ってはいるものの、葉加瀬の声色は緊張を含んでいる。
本題は別にあるのだろうと、秋野が言えば、明日の夜に話すと返される。
つまり、明日も溜まり場に行かなくてはならないということに思い至った秋野は、深く息を吐いた。
「もういっそお前が総長やれよ」
『えーなにそれ今更ナニソレーないわーなさすぎー』
「コロスゾ」
『それは勘弁!!!』
正直なところ、自分よりもよほど、葉加瀬の方が人をまとめるには適していると、秋野は思っている。
それを言ったところで、おまえがトップだからこのチームは成り立っているんだよと返される為に、いつからか、口にすることをやめるようになった。
『近々、お祭り騒ぎになるよー』
「……………」
今度会った時にまた話すと言い、返事も聞かずに切れた通話に苛立ちを覚えたが、この場で悪態をついたところで現状は変わらないどころか、相手にも伝わりはしない。
秋野は気持ちを落ち着けるために深い息を吐き、丁度届いたメールを開いた。
そこに記されていた内容に眉を顰めはしたが、仕方がないことだと、諦める。
最初は面倒だと思っていただけだったが、今では面倒を見なければならないという思いもある。
ある意味、チームは自分の居場所になっている。
だからこそ、降りかかってくる火の粉は振り払わなければならニア。
それが、不本意ながらにもチームの総長になってしまった自分の役目であると、秋野は思っている。
―――滋くん、も。むり、しないでね。
部屋に入る直前に小さく呟かれた言葉を思い出した秋野は、その場に蹲る。
他者に、純粋に心配そうに言われたのは、初めてのことで、どうもしなくてもいいと思いながらも、どうしたらいいのか分からなくなっている。
その時の表情と、嬉しそうに微笑む姿を思い出してしまった秋野は、呻きながら自分で自分がわからないと、ここ最近では日常になっている思考を打ち切った。
自分の感情を、処理することは当分、できないのだろうと思いながら。
2017.04.04