Their story ≫ 2
処理(side.E)
意味を持たない文字列を思う。
自分にとっては意味がなくとも、特定の者にとっては意味を持つ物であると、十分、理解している。
パソコンの電源を入れた都は、嫌々ながらも新着メッセージが届いていないかどうかの確認をする。
もしも新しい物があれば、処理をしなければならない。
それが、好ましくない事であったとしても。
(慣れって、怖い)
好きではないと思いながらも、気付けばそうしてしまっている。
習慣付いてしまっているその行為を止める方法を、都は知らない。
「…………、」
玄関の扉が開く音が聴こえ、反射的に立ち上がって自室の扉を開けた都は、廊下で秋野と鉢合わせた。
驚いているのか、目を見開いている秋野を見て、自分は一体何をしているのだろうかと思った都は、どうしようかと迷った末に、口を開いた。
「ご、ごめん…」
「―――――お前、」
何か言わなければいけないという強迫感に襲われた都は、勢いで秋野を見据え、言う。
「おっおかえり滋君!!!」
叫ぶように言ったその言葉に、秋野の動きが止まった。
「……………」
「…………………」
「……………」
いったい自分は何をしているのだろうと思いながらも、秋野の様子を窺う都は、動くことができなかった。
双方共に沈黙が続き、次に先に口を開いたのは、秋野だった。
「ただいま」
そう答えた後、表情を顰めている秋野が何を考えているのかは分からないが、怒っているようではないと察した都は、勢いでもう一度「おかえり」と告げた。
しばらくして、秋野が口を開く。
「熱は」
「え…?」
ぶっきらぼうなその言葉に、首を傾げて尋ねれば、舌打ちの後に秋野から答えが帰ってきた。
「また体調崩してただろうがよォ」
「あ、その節は…」
「礼は別に良い」
こっちが勝手にやったことだ。
秋野のその言葉に、都は知らず、微笑んでいた。
まだ調子がもどっていないンだろうと言う秋野に、なぜわかるのだろうかと思いながら、都は頷いた。
「早く、寝ろ」
「う、ん…そうする、」
最も、秋野と話している最中に新着メッセージが届いた時に鳴る音が聞こえていたため、その処理を済ませてからにはなるだろう。
そんなことを考えながら、都は自室へと戻った。
(なんなんだろう…)
秋野の事は、悪い人ではないということ以外、よくわからない。
それ以上に、都は自分のことが分からなくなっている。
「……はやく、済ませよう」
思考をやめ、処理を始める。
何も考えずにできる作業は、嫌いではない。
そんなことを思いながら、秋野の言葉を思いながら、都はできるだけ早く処理を終え、寝ようと決めた。
2011.12.26
2017.04.03