Their story ≫ 第三幕
宿泊部屋にて会話
強制的に溝口と同じ布団の中にいた蒼は、明け方になって漸く放してもらう事が出来た。
一体何時何処で何のフラグを立てていたのだと自問自答しながら、宿泊部屋を後にする。
尋ねる時間ではないが気が向いたら行くと告げていた為、問題はないだろうと結論付けた。
一草がいるはずの宿泊部屋の扉を叩いた蒼は、扉がすぐに開かれた事に若干驚きながら、不機嫌そうな様子の彼を見上げた。
「―――遅い」
「………おはようございます?」
なんだそれは。
そんな視線を向けられた、蒼は肩を竦め、笑う。
椅子を進められ、腰を下ろした蒼は、一草に尋ねる。
「それで、何の話をしたらいいんですか」
いつもはない一草との距離感を不思議に思いはしても、その件に関しては尋ねずに、彼の言葉を待った。
「如月の双子、アイツ等は天城の事を嫌っていたんじゃなかったのか」
「……僕に彼らの考えていることなどわかりませんよ?」
素直に答えても良い事かもしれないが、双子は双子で、考えて動いているはずだと思うと、それを口にする事は憚られた。
「幼馴染だろ」
「どこでその情報を?」
「誰が言うか」
「デスヨネー」
どうせまともな返答など望めない。
その事が分かっている蒼は、明後日の方向を見ながら答えた。
「確かに、幼馴染ではあります。けど」
僕等の場合は幼馴染とは言っても本当に幼い頃に仲が良かっただけで、そのあと何年も時間があいて、高等部になってからです。再会したのは。それに、生徒会役員である彼らとそう頻繁に会えるわけがないでしょう。
溜息を吐きながらも言葉を付け加えた蒼は、意外そうな視線を向けられ、苦笑した。
「そんなに気になるなら自分で聞いてみたらどうですか?」
もしかしたら答えてもらえるかもしれませんし。
そう言った蒼に、一草は深い溜息を吐いた。
「それにしても、異常だろう」
彼にとって重要な問題は、他にある。
気にしなければいけないことは、別の場所にあるのに、何故如月を気にするのかと考えながら、蒼は唯一ヒントになりそうな言葉を口にする。
「―――先生」
異常も何も、アレが彼等の普通ですよ。
薄く嗤った蒼は、一草の様子を窺う。
「一緒ではないのか、アイツを好いて、付き纏っている奴らと」
一体この人は何をどう見ているのだろう。
そんなことを思いながら、蒼は俯く。
下を向いている為に、自分の表情は一草からは見えない。
見えていたのならばきっと、一草は何かしらの行動をしていただろう。
「先生、サービスです」
顔を上げた蒼は、真顔で、一草に言う。
「あの目、」
「目?」
「“あの目”が、他の生徒会役員や取り巻きと同じような感情を向けているものに見えるなら、先生の目は節穴。としか言いようがないです」
一草名乗るの、辞めた方がいいんじゃないですか。
余分な言葉を加えれば、心外だと言うかのように双眸が細められた。
しかしながら、それが事実であることを認めたのか、一草は俯く。
(気付けなかったら、一草の名が廃る)
少しばかりヒントを与えれば気付くのが一草であり、だからこそ一草はある仕事を任されている。
暫くして、蒼が言いたい事に気付いたのか一草は目を瞠った。
「おまえ、あれは……」
「巧妙に隠してますけど、おそらく」
遊び道具にでもしてるんでしょうね、天城を。嫌いか好きかはおいておいて。
呆然とした表情で言う一草に、蒼は世間話をしているかのように、軽い調子でそう答えた。
「アイツらなんでSクラスなんだ…」
小さな声で、自問自答するように呟かれた一草に、蒼はそれも調べれば出てくるんじゃないですかと笑った。
若干疲れた様子の一草を見て、あまり積極的に特別棟生徒主催のゲームについて調べていない様子であると気付いてしまった蒼は、仕方なく伝えておこうと思い、息を吐いた。
(みんなにとって、良くない方にいくのも、困るし)
訝しげに自分を見ている一草と視線を合わせ、蒼は言う。
「Zクラス主催のゲームには、決まりごとがいくつかあるんです」
「は?」
一草の状態を気にせずに、蒼は続ける。
「一つ目は、理事長の許可を得ること。二つ目は、参加者は最終学年を除く一年生と二年生のみ。三年生が参加した場合、何かしらのペナルティが課せられることになります。三つ目。ゲームの開始合図は混乱に乗じ、必ず遊び歌で始めなければいけません。ゲーム参加者はその遊び歌の意味を正確に読み取り、適切にゲームに参加することが義務付けられています。その過程で、学園に不利益になることは行ってはいけないことも決められています。四つ目。ゲームに私情を持ち込んではいけない。五つ目。特例によって、参加者を加えること、減らすことが可能です。最後、六つ目。ゲーム終了の合図も遊び歌によって行います」
まぁ、私情を持ち込まないなんてことは、無理な話、だと思いますが。
「……………蒼」
一息ついた途端、下の名で呼ばれた蒼は珍しくも表情を険しくし、硬い声で応じる。
「下の名前で呼ばないでもらえますか?」
「久しぶりに聞いたな、その言葉」
「まぁ本当はどうでもいいんですけど、ね」
僕も我が身が可愛いもので。
蒼は言い、珍しくもあどけなく笑った。
驚いている様子の彼を見て、何故唐突にルールを言い連ねたのか理解できていないのだろうと思った蒼は、半ば投げやりに、吐き捨てる様に言い放つ。
「紀伊ちゃんが、暴走しないようにみていてくださいね」
「―――――お前、」
「それが先生の、」
いえ、一草としての役目でしょう。その役目を果たすためには、ゲームのルールを正確に知っていた方がいいと思って。ところで、本当に僕は双子の話をするためだけに呼び出されたんですか?
蒼は尋ね、一草はそんな蒼を見て、バツが悪そうに項を掻いた。
2012.09.27
2017.04.02