Their story | ナノ


Their story ≫ 第三幕

林間学校にて遭遇 其ノ漆

人から向けられる好意に気付いたところで、同様のものを返す術は持っていない蒼は、その事を申し訳なく思いながらも、態度には出さない。
ギブアンドテイクという言葉に反するが、特別な感情を向けられたところで同じような感情を、返すことはできない。
もしもできたとしたら、それは奇跡に限りなく近い。

「こんな近くでやるなら一緒にやればいいのにね」
「それはムリだよぉ」

話を変えようと思ったわけではないが、蒼がそう呟けば、七草が答えた。

「知ってるけど、つい」
「―――去年より場所が近くなってるけどな」
「それは仕方ないよぉ、なぁんにも知らない人が場所を考えたらそうなっちゃうってぇ」

唐突に話題転換が行われた所為か、鼓浦が憮然とした表情で言い、七草が続ける。
それでも、切り替えてくれたことを有難く思いながら、その事に関しては口に出さず、蒼は微笑む。
七草も鼓浦も、苦笑を浮かべている。
『なぁんにも知らない』との言葉に、鼓浦は苦虫を噛み潰したかのような表情をしていた。
だからこそ、蒼もその事実を思い出すことが出来たのだが。

「ああ、そっか。今理事長室にいるのって、」

蒼が言えば、嗤いながら七草が言う。

「そうだよぉ。なぁんにもしらない、傀儡」
「傀儡、って…」

蒼が鼓浦を見れば、彼も七草と似たような表情をしていた。
当然と言えば当然と言えるが、こんな風に思われてしまう彼が不憫なのではないかと、蒼は思った。
もちろん、本心ではない。

「あーあ。早く、戻ってこないかなあ」

だからこその蒼の言葉に、それなんだけどぉ、と、七草が言った。

「このゲームが終わり次第戻ってくるってぇ」
「ほんとに!?」
「げ」

喜色の滲んだ声で言った蒼とは正反対に、鼓浦は顔を盛大に顰める。

「そんなこと言ってないで今すぐ戻ってきてくれればゲームも終わるのに…」

蒼の言葉に、七草は困ったように笑った。

「無理だよぉ、あっちが大変だから行ってるからさぁ」
「……なに、あーゆー人たちって大量発生する時期ってのがあるの?わーめんどー」
「…………蒼」

窘めるように鼓浦は蒼の名を呼んだが、そうしたところで、蒼の表情と態度は変わらなかった。

「せめてもの救いは特別棟にはまったくといって言いほど影響がないことだよね」
「ああ、だってそれはぁ、」
「別、だからな」

微笑みながら言った蒼に、七草が中途半端に言い、彼の視線を受けて、鼓浦が面倒そうに続けた。

「僕はそれが不思議なのですよ。正直、学園全体をまとめ上げる手腕も容姿も持ってるのに、何故、特別棟のみにとどまっているのかと」

その言葉に、蒼は言い、唐突に時計を見て、小さくあ。と、呟く。
不思議そうな表情をした七草と鼓浦を見て、蒼は時間の事、忘れてた。と、腕時計を見せながら言った。

「そっかぁ、参加してるんだっけぇ?」
「そうそう。ちなみに今年もみぞぐっちゃんと同室らしい。イェイ」
「………………棒読み乙」
「気心知れた人と同室と言うのはありがたい話です」

七草の問いに答え、鼓浦の言葉を受け流す。
何かを考え込むかのように遠くを見た蒼を、七草は好奇心を隠さずに、鼓浦は僅かに不安を浮かべながら見つめていた。

「きぃちゃん」
「なぁに?」
「やりすぎないでね?」

珍しく真剣な表情で、茶かすわけもなく、蒼は言った。
何について言われたのか、その言葉だけで理解した七草は確かに、微かに表情を歪めた。
泣き出しそうな笑いだしそうな、怒り出しそうな表現することが難しい表情で、蒼を見る。

「会長が使い物にならなくなったら、」

君をどうにかしなきゃいけないことになる。僕が。

猫のように目を細めながら、蒼は言う。

「僕、こう見えて気に入ってるんだよ、君の事」

念押しするように、蒼は笑う。

「だからさ、やりすぎないでね」
「蒼ちゃ「さて、そろそろほんとに行かないと」………」

きぃちゃんと十夜は、あっちで楽しんで。僕はこっちで楽しむよ。
蒼は言い、その場を後にした。
自分を引き留める声は、聴こえない振りをして。

2012.09.25
2017.03.21


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