Their story | ナノ


Their story ≫ 第三幕

林間学校にて遭遇 其ノ陸

七草が笑い、蒼は首を傾げる。

「それはそうとぉ、着替えたいでしょぉ?」
「………」

そんな七草の言葉に、蒼は困ったように微笑んだ。
何故七草が知っているのかを考えてみたところで、考えるまでもなかったことを思い出した蒼は、七草の手からぶらさがっているものを見た。
変なところで気が利く友人を持つとありがたいとすら思いながら、笑う。

「ほらほらぁ、蒼ちゃんの事離してぇ?十夜ぁ」
「嫌だ」
「嫌って言ってもぉ、十夜が離れないと蒼ちゃんが着替えられないよぉ?」

七草の言葉に、鼓裏の腕の力は緩み、その隙にするり、と蒼は彼の腕の中から抜け出した。
七草が持っていたシャツを受け取り、素早く着替える。
此処が外である事実は蒼にとってはどうでも良かった。
鼓浦が何かを言いたそうに、視線を彷徨わせていたのは気にせず、蒼は七草を見た。
何故、等、尋ねる事は野暮であると、これまでの経験で、蒼は知っている。

「ありがと」

だから。
蒼は、それだけを七草に告げた。

「どういたしましてぇ」

ゆるく笑って七草に答えられた蒼は、本来この場にいないはずの彼等が、何故この場にいるのかについて、形式上、尋ねる。

「退屈だったから抜けてきたんだよぉ」
「退屈って…」
「―――事実だ」

七草の言葉を繰り返すように呟けば、その言葉に鼓浦が頷く。

「去年も参加しなかったよねぇ、蒼ちゃん」

恨めしそうに言う七草に、蒼は笑った。

「うん。約束、破れないからさ」
「約束ぅ?」
「そう。僕、嘘吐けないから。一度してしまった約束は守らなきゃいかんのですよ」

面倒そうに言った蒼に、七草は笑う。
鼓浦までも薄い笑いを浮かべていた。
彼等は、心なしか困ったような表情をしているように見えた。

「何…?」
「うん、やっぱり蒼ちゃんが一番信用できるなぁ、と思ってぇ」
「それは、」

ありがと?

七草の言葉に頷いた鼓浦と、信用という言葉を使わないと思っていた七草の言葉を不思議に思いながら、蒼はそう返した。

「それより。きぃちゃんも、十夜も、ここにいていいの?」
「いいんだよぉ」
「どうせろくでもねーことしかしねーだろ」

ケラケラ笑いながら言った七草の後に、鼓浦が言う。
ろくなことしかしていないことは、人伝に聞いて知っていたものの、それでも蒼はつい、尋ねてしまった。

「ところで、十夜」

さっきどうして僕に抱きついてきたのかな?
笑顔を浮かべて言った蒼に、別に。という答えが返ってくる。

「別にって……。意味もなく君は人に抱きつくの」
「十夜は蒼ちゃんのこと大好きだからぁ」
「おま、」
「事実でしょぉ?俺も蒼ちゃんのこと好きだよぉ」

笑いながら言う七草を見ながら、蒼は、思わず俯いてしまう。

「蒼、」

不安そうな声で、鼓浦に名を呼ばれた蒼は、すぐには顔を上げることは出来なかった。
鼓浦の言う好きが、友人に向けるべきものでないことは分かっている。
七草の言う好きが、友人の域を出ないことも分かっている。
蒼はそれほど、鈍くはない。

(やだなにこれ、フラグは全部ぶった切ってきたつもりなのに、まだ残ってたっていうの。どうしようこれ。このフラグって回避不可能じゃないのめんどい。こういう時自分が鈍ければ良かったって思うけど、ああ、めんどい)

考えようとしたものの、結局考えがまとまらなかった蒼は、足元にあった小石を蹴飛ばした。

「僕も好きだよ。十夜ときぃちゃんのこと」

友達として、ね。

その言葉を付け加えることを忘れずに、蒼は言った。

「残念だねぇ、十夜」
「言ってろ」

きっと、何故最後の言葉を付け加えたのか、聡い彼等のことだ。分かってくれことだろう。
そんなことを思いながら、鼓浦の表情の変化が面白かったために、蒼は笑った。

2012.09.25
2017.03.20


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