Their story ≫ 第三幕
林間学校にて遊戯 其ノ二
偶然見つけたのか、後を付けられていたのか。
はたして、どちらだろうか。
そんなことを考えながら、蒼は首を傾げ、質問を投げた。
同じ顔をしながらシンメトリーになるような恰好をしている(最も、服まではそうできていない)双子‐夕と夜‐に向かって。
「逃げなくて、いいの?」
楽しそうに笑いながら夕と夜が答える。
「ぼくらは」
「いーんだよ?」
「「説明聞いてなかったんでしょ!」」
目の前に現れた夕と夜は笑っている。
その表情が嬉しそうにも見えた蒼は、淡く笑みを浮かべた。
「―――うん」
聞いてなかった。
蒼がそう答えれば、夕は苦笑し、夜は笑った。
「「そんなことだろうと思った」」
「説明いる?」
「説明きく?」
尋ねられた蒼は、少し悩んだ後、答えを返す。
「んー…いいや」
そう答えた蒼は、そのまま夕と夜の脇を通り過ぎようとしたが、両側から腕を掴まれたために、動きを止める。
腕を掴み、俯いている為に蒼から彼等の表情を見ることは、出来ない。
「何?」
「………って」
「ん?」
がんばれって、言って。
確かに、夕と夜はそう言った。
お互いしかいないはずの彼等の世界に、いったい何が起こったのだろうかと考えながらも、蒼は応える。
「がんばれ?」
途端、弾かれたように顔をあげた二人は、満面の笑みを浮かべていた。
「「がんばるっ!ありがと、蒼!」」
そう言い、走り去っていった二人をそのまま見送った蒼は、息を吐いた。
結局説明を聞かずに済ましてしまったことを少しばかり後悔しながら歩き出そうとしたところで、視線を感じ、動きを止める。
隠れるつもりもなかったのか、すぐに見つかった整った目立つ容姿を持つ彼に対し、目を細める。
「特別棟の生徒がなにしてるのー?」
「特別棟の生徒?」
いや。そういう貴方、誰ですか。
その質問を心の中にしまいこみ、蒼は聞き返した。
「訊いたのおれなんだけどー?」
「ああ、そうでしたね。ところであなたは、ドチラサマデショウカ?」
蒼の問いかけに虚を突かれたらしい相手は、一瞬目を見開き、信じられないと呟いていた。
一応は記憶の中を探してはみたものの、結局蒼が自分で思い出すことはなく、代わりに何故か、七草の言葉を思い出した。
曰く、綺麗な人には近付いたらダメだよぉ。
(近付くも何も、相手から近付いて来た場合は、どうしたらいいんだろうね、きぃちゃん)
目の前にいる人は綺麗な人とも表現出来ると思っていれば、相手が口を開く。
「劉堂傑、だよー」
「劉堂傑?」
「………一応、生徒会会計なんですけどー」
なにこれおれじいしきかじょーってやつー?
呟いている劉堂に向かい、蒼は言う。
「特別棟の生徒が一般棟の生徒会役員に興味持っているとでも思っていたんですね」
「……………」
信じられないと言いたそうな視線から逃れる為に、蒼は劉堂から視線を逸らした。
それ程時間を置かずにショック状態から抜け出したのか、劉堂が言う。
「でー?」
「で、とは、なんでしょう?」
蒼が尋ねれば、嘲笑とも受け取れる笑みを浮かべながら、返される。
「解ってるくせに聞き返すのは滑稽だよ、藍田蒼」
「………」
滑稽も何も、意図が分からないから聞くほかなかった上に、なぜ自分の名前を知られているのだろうか。
そんなことを考えながら、蒼は劉堂を見上げた。
2012.09.16
re 2016.01.06