Their story | ナノ


Their story ≫ 第三幕

林間学校にて遊戯

蒼の願いとは裏腹に、今回も羽目を外す生徒は多かったが、一休みとばかりに腕時計を見ればいつの間にか自分の受け持ち時間が終わりを迎えそうだった。
この分ならそろそろ連絡が来るだろうと思っていれば、予想通りポケットが震える。
震えていた端末を取り出した蒼は、其処に浮かんでいる文字に口の端を上げた。

『お疲れ』

警備時間が終わったことを指し示すメッセージに、蒼は微笑んだ。
端末に浮かんでいた文字に返信はせず(下手に触ればしなくていいことまでしてしまい、挙句端末を壊してしまう可能性が高いことを、理解している為に)そのまま仕舞い込む。
人目につかない場所でいつも通りの格好に戻ると、指定された場所にそれを吊し上げる。
誰かに見られていた場合が恐ろしいと思いながらも、特に問題が起きていない以上、このことに関して触れる必要もないだろうと、小さく息を吐き腕時計に目をやった。
微かに聴こえてくる声に耳を済ませば、丁度、生徒会主催のイベントに関する説明がされている様だった。

(おにごと、か)

基本的に隔離状態であるとも言える特別棟の生徒は林間学校に参加できないことになっているが、その代わりに特別棟の生徒達は同じ日時、別の場所で特別棟の生徒のみで合宿を行うことになっている。
同じ学園であるにも関わらず、一般棟で過ごす生徒と特別棟で過ごす生徒は基本的に出会うことはない。余程特殊な出来事が引き起こされない限りは。

―――その特殊な出来事が此処二年、連続して起こっている事実は異常事態とも言える。

卒業生が言っていたことを思い出した蒼は、小さく息を吐いた。
上手く紛れ込むことが出来ればいいと思いながら説明会場に辿り着けば、生徒は皆、壇上に居る生徒会を熱の籠った視線で見つめていた。
毎度の事ながら若干、気色が悪い。
そう考えながら溝口の姿を見つけた蒼は、その隣にするり、と紛れ込んだ。

「今回のご褒美、なんだろうね」
「まだ言われてないけど、きっと………って、蒼たん!?」
「だからそれはやめて」

叫ぼうとしていた溝口の口を反射的に塞いだ蒼は、声を出さないという意思表示を確認した後、その手を離した。

「蒼…いい匂いした……」
「ヤメロヘンタイ」

ぼう、としながらそう言った溝口を蔑んだ視線で見ながら蒼はそう返し、その直後の溝口が浮かべた表情を見て思う。

(ああもうコイツ駄目だ)

何がと言われれば即答はできないが、とにかく駄目だとそんなことを思った。

「どったの蒼たん」
「だからやめろって…」

溝口を見れば、彼はただ、笑っている。
毒気を抜かれるような笑みを見た蒼は、これだから溝口は厄介だと思いながらも苦笑を返した。

これから先、一人、また一人と、天城の周りからは人がいなくなっていく。近い将来。じわじわと、ゆっくりと侵食するかのように。完全に、彼は孤立する。
結局のところ、彼の真実‐ホントウ‐は、全て、作り上げられている。
何が彼をそうしてしまったのか、正確なところは分からないが、歪みが歪み以外を生み出すことはない。

「それじゃあはじめるよ!」
「みんな頑張ってね!」
「「ゲームスタート!!」」

張りのある声に現実に引き戻された蒼は、周りの人たちが散っていくのを見、誰が鬼であるかを聞いていなかったことを思いだした。
かといって、今更溝口に聞くこともできない。
溝口にしては珍しい事に、開始合図とともに、風の様に去って行った。

(せっかく参加できるようにしてもらったわけだし)

適当に。
誰かを捕まえ、ルールを聞けばいいかと、蒼は散り散りになっていく生徒に紛れた。

2012.09.10
re 2016.01.01


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