Their story | ナノ


Their story ≫ 第三幕

林間学校にて仕事

一草から離れた後、指定された場所に荷物を取りに行った蒼は、そこに置かれていた銀色のタイと『風紀』と書かれた腕章をつけ、髪をカラースプレーで染めた後、面が割れないように『狐面』をつけた。
この格好を見て、藍田蒼であることに気付く者は、正体を知る者以外にはいないと考えながら、道を歩く。

(毎年、よくやるな…)

ただでさえ山奥にある学園から、豪華なバスに乗り、更にその奥の僻地が林間学校の行われている場所である
高い場所から見れば、一見レジャーパークにも見える其処には、宿泊所の他にもイベント施設がある。
良くも悪くも、新入生歓迎会を兼ねた林間学校は、羽目を外す生徒が少なくはない。
風紀は警備を行っているが、それでも、羽目を外す生徒はいなくなることは、ない。
林間学校で一度でも風紀の姿を見たことがある者は、風紀委員が活動していることを知っているはずだが、自分だけは捕まらないかもしれないという慢心から、事に及んでしまうのかもしれない。

(―――…)

蒼は鷲澤から見せられたリストの内容を思い出す。
二度あることは三度ある。とは、よく言ったものだ。
指定の場所から移動し、見回りに入ろうとしていた蒼は、その道中で見つけた光景に嘆息しながら、近付いて行く。
襲っている側の顔は、鷲澤から見せられたリストに載っていたため、記憶の中の名前と顔写真を照らし合わせながら、蒼は口を開いた。

「警告三回目は、反省文にプラスして、謹慎一週間。ってご存知ですか?」

声をかけた瞬間、その場の空気が止まり、一身に視線を受けた蒼は、仮面の下で笑みを浮かべた。

「去年二回目だと告げた時、確か、『もうしない』と言っていたと思うのですが。あの言葉は嘘だったのですね。それとも、忘れてしまいましたか?」

途端、小さな悲鳴が上がった事に対しては特に何も思わず、蒼は続ける。

「生徒手帳、出していただけますか?」

最後の言葉を言い終わる前に飛びかかってこられたため、その拳を避け、足技だけで彼等を伸した蒼は、見えないと知りながらも、嗤った。

「………下手な抵抗は無駄ですよ」

蒼は言い、暫くの間、まるで遊んでいるかのように彼等と応戦していたものの、やがて飽きたのか次々に気を失わせていく。
呆気なく気を失ってしまった彼等のズボンからベルトを抜き、そのベルトで彼等を縛り上げると生徒手帳を探そうとしたものの、結局その動きを止めた。

「―――大丈夫ですか?」
「あ、は、い……」

見覚えがない、はずだったが、以前一度、成り行き上助けた事がある生徒に思えた蒼は、結局それについては尋ねず、先程の行為が合意出なかったかどうかのみ尋ねた。
仮にもし、合意であった場合、彼等には申し訳ないことをした事になる。
最も、蒼に謝る気はこれっぽっちもなかったが。
行為に至るのなら、それらしい場所にしてくれというのが蒼の持論である。

「あ、ありがとうございました」
「いいえ。仕事ですから」

合意でなくて良かった。
安堵を滲ませて言った蒼に、淡い笑みが返される。
その笑みを見た瞬間に、目の前にいる生徒が最近響山が気にかけている人であることに気付いたが、それに気付いたところで何をどうこうしようという気も起こらない。
ポケットから地図を取り出し、現在地を予測し、ホテルと行事会場がある場所を確認し、口を開いた。

「この道を真っ直ぐ進んでいけば、ホテルか行事の会場に着けますので」

蒼がそう告げた途端、顔を輝かせた彼を見て、響山が気にかけるのも少しは分かる気がすると思いながら、お礼を言った後に走っていく彼を見送った蒼は、呟いた。

「出来るだけ、今回は少ないといいなあ」

2012.09.04
re 2015.12.02


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