Their story | ナノ


Their story ≫ 第三幕

風紀室にて確認

その後すぐ、七草と別れた蒼は、ポケットの中に入れてあった紙の存在を思い出し、息を吐く。

「………、壊れるのかな」

天城がそうなったところで、蒼にデメリットはなく。
ただ、メリットもあるとは言い難い。

(それでも)

考えながらも足を進めていた蒼は、教育棟に辿り着いたことを確認すると、扉のない部分に手を滑らせた。
その一瞬後、蒼の姿は吸い込まれるかのように、壁の中へと消える。
一応人がいないかどうかを確認してはいないものの、仮に誰かに見られていたところで決められた手段を知らない限り使う事は出来ない道であるため、問題はない。

(忙しくなりそうだなー…)

蒼は思いながら、着崩した制服を校則通りに身に纏い、隠し扉を入った通路の壁にかけられている面から狐面を選び取り、顔に付けた。
薄暗い通路を進み、適当な場所で先程とは多少違う動きをすれば、風紀室の中に出る。
出た場所から正面に見える風紀委員長の机に向かうと、自然な動作でその上に腰掛けた。
待ち合わせの時間まで後どれくらいあるのだろうかと壁にかかっている時計を見たところで、風紀室の扉が開かれる。

「来ていたのか」

現れた人物に面の下で笑いながら言った蒼は、一瞬驚いたように見開かれた瞳を面越しに見つめ、目を細めた。
勿論、それは相手には伝わらない。

「時間は守るよ?」

風紀委員長である鷲澤に言われ、蒼は若干投げやりに言葉を返す。

「編入前からの約束ですし」

鷲澤は微かに笑い、手に持っていた鍵を蒼に向かい放り投げた。
危なげなくそれを受け取った蒼は、鍵の形をしたUSBを見て、微かに眉を寄せた。が、面の下であったために鷲澤には伝わらるはずもなく。

「紙媒体じゃなくなった?」
「………電子機器は苦手だったか」
「認めたくはないけど、割と苦手」

問われ、蒼は答えると鷲澤に鍵のカタチをした記憶媒体を投げ返した。

「今あるなら見せて。覚えるから」
「相変わらずだな」
「まぁ、ね」

相変わらずという言葉はあまり好きではない。
そんなことを思いながら蒼は答え、鷲澤が起動させたPCの画面上に出てきたデータに目をはしらせていく。

「あ、そうそう」

まるで思い出したかのように蒼は言ったが、その視線はモニターから逸れることなく、鷲澤もそれを知っているために書類を捌く手を止めはしない。

「なんだ」
「―――僕等が“狩り”を始めるのは必然。既に恋情も愛情も憧憬も羨望も何もかも砕かれ壊され潰され、狩られた狼はいる。やがて目覚める鷹を求めて、僕等は遊ぶ。可もなく不可もなく。僕らは多少なりとも、ゲームが始まった以上はそれに関わらなければならない」
「つまり?」
「察してよ、ふうきいいんちょ」

頭の良いあなたなら、答えは解るでしょう?
面をしていてもどんな表情をしているのか分かってしまう調子で蒼は言い、それを見た鷲澤は声を発てて笑った。

「―――、」
「元には戻らない、と言う事か」

珍しいとは告げず。
笑いが収まった後の鷲澤の言葉に、蒼は頷く。

「リストの人物は全員覚えた。ありがとう」
「―――よろしく頼む」

来た時とは異なり、蒼は窓を開けると窓枠に足をかけ、そこから飛び降りた。
その直前に、返事をすることだけは、忘れなかった。

2012.09.01
re 2015.11.18


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