Their story ≫ 第三幕
緑地にて会話 其ノ二
そのまま。なんとなく、同じ方向へと足を進めていた蒼は、七草の言葉に歩みを止めた。
「転入生くんはぁ、どうすんだろうねぇ」
「なにを?」
「同室者君の事だよぉ」
不思議に思い、尋ねた蒼は、答えを聞いて、小さな声で呟いた。
「そのことか」
「篠君は病棟でしょぉ?そうしたらさぁ、」
「まず、見つけられないだろうね」
立ち入りも、余程の理由がない限りは許可されないだろうし。
蒼は微笑みながらそう言った。
天城に関する話は特別棟にも届いてくる。当然のように、それに付随する形で彼を取り巻く生徒たちの話も届く。
ゲーム対象者に関しての情報収集は常に行われている為、特別棟の生徒にとっては、先日天城が校舎裏で倒れ、誰かに保健室まで運んでもらった事や、そんな天城が篠を探していると言う話、果てには篠が病棟に入院。その話を知っている事が、普通だと言える。
「仮に篠を見つけることが出来ても、何もできないよ」
「………そっかぁ」
かわいそうだねぇ。
そう言いながらも、七草は笑っている。少しもかわいそうとは思っていない様子の彼を見て、蒼は苦笑した。
ーーー誰だって、自分のお気に入りに手を出されたらそうなっちゃうよね。
そんなことを考えながら。
病棟は学園に備え付けられている病院の別称であり、見舞われることによって症状を悪化させた者がいて以来管理責任者によって許可を受けた者しか入れないことになっている。其処に理事長が介入することは出来ず、特例・例外は認められていない。
「あぁ、でもぉ」
彼も重病人になればはいれちゃうねぇ。
まるで悪役が浮かべるような表情で言った七草を見た蒼は、気付けば手を伸ばし、七草の髪を撫でていた。
「………蒼ちゃん?」
「落ち着きなよ、きぃちゃん」
若干気分が浮上した様子の七草を見て蒼は微笑む。
「あの子があそこに行ったところで、何も、変わらないよ」
そういうふうに、なっているから。
その言葉は飲み込んで、蒼は続ける。
「ただの、きっかけでしかないんだから」
「ーーーそっかぁ」
学園平和になるかもしれないって思ったんだけどなぁ。
そう言った七草に、蒼は苦笑する他なかった。
2012.08.31
re 2015.11.06