Their story ≫ 第三幕
緑地にて会話
何かをする。そう言ったところで、できることなど限られていると、蒼は思う。きっと自分が出来ることは、スイッチを入れることだけなのだと。緑の中に座り、そんなことを考える。
―――約束だよ。
何度も何度も繰り返されるその記憶を、いっそのこと封じられたらと思うことだけは許してもらいたいとそんなことを思う。
「……あれぇ、蒼ちゃんだぁ」
「きぃちゃんだ、どしたの」
声をかけられ、振り向けば七草が不思議そうな表情を浮かべ、佇んでいた。
「ここに来るなんて、珍しいね?」
学園の七不思議スポットの内の一つである場所には、年間通して特別棟の生徒ですら、来る事は滅多にない。考え事をするには持ってこいのこの場所に、蒼はよく訪れているが、他の人に会ったことは、今まで片手で事足りる程しかなかった。
その質問に気を悪くするでもなく、七草は笑いながら答える。
「お散歩してたんだぁ」
「そっか」
「そうだよぉ」
にんまりと笑った七草を見て、思うところはあったものの、素直に頷く。
「迷い込んだ先にぃ」
蒼ちゃんがいましたぁ!
嬉しそうに言われ、蒼は虚をつかれたように目を見開いた。
「なぁにぃ?」
「ん。きぃちゃんでも、迷うんだって思って」
「迷うよぉ、迷う事ありありだよぉ、方向音痴だからねぇ」
それは初耳だ。
呟いた蒼に、七草は相変わらず笑っている。
「蒼ちゃん」
背中合わせに座られ、蒼はどうしようかと考えた結果、七草の背にもたれかかった。
「なに?」
「林間学校、どうするのぉ?」
「去年と同じ。一般の方で参加するよ」
「去年と同じ、かぁ」
残念だなぁ。
そう言われた蒼は、七草の声が若干沈んでいるように感じ、立ち上がると正面にしゃがみこんだ。
「何かあった?」
七草と蒼の視線が交わる。
蒼の問いかけに、七草はへらりと笑った。
「何もないよぉ」
全然関係ないことだろうと思いながらも、蒼は口を開く。
「来年は多分、参加できるよ」
「来年の事じゃなくてぇ、今年の話してたんだけどぉ?」
「分かってます」
だけど、今年はムリだから。ほら、転入生も来てるし。
相変わらず笑いながら、蒼は言った。
「蒼ちゃんとさぁ、天城ってぇ」
「―――それは、駄目、だよ。きぃちゃん」
だって、紀伊は七草だから。
「…………やっぱ、知ってんじゃんか」
「きぃちゃん、口調口調」
「蒼」
「うん。ごめん、ね?」
自分から伝えることは出来ないと言った蒼に、七草は苦笑した。
「蒼。無理、すんなよ?」
「だから、きぃちゃん、口調」
その言葉の内容に、一瞬息を止めた蒼は、次の瞬間情けない笑みを浮かべた。
「俺は真面目に、」
「うん。ありがと、紀伊」
笑みを浮かべて、蒼はそう返した。
2012.08.31
再掲載 2015.1019