Their story | ナノ


Their story ≫ 2

過去 (side.E)

幼い自分は縁側に座り、誰かを待っている。
待っていた人が来たのか、その誰かに駆け寄ろうとして縁側から立ち上がる。
立ち上がった瞬間、地面にあった小石に躓き、前のめりに倒れ込んだ。
慌てたように駆け寄ってきた相手に大丈夫だと言うように笑いかけた幼い自分は、確かにその相手を好いていた。

―――意識が浮上する瞬間は余り好きではない。

そんなことを考えながら、都は瞼を開けた。

「………………、」

何度目になるか分からないものの、特に最近はよく、幼い頃の夢をみる。
ベッドの上に上体を起こし、時刻を確認すれば、すでに昼近くだった。
そのことに驚きながらも、都は、ベッドから降り、自室を出た。

「………あれ」

紙面でのやり取りをするようになってからは、休日になるとリビングでテレビを見ていることが多くなった秋野がいないことを不思議に思いながらも、昨晩、眠る間際に聞いた扉の開閉音が夢ではなかったのだろうということに思い至る。
流石に、自室までいるかどうかの確認をしに行く気にはなれなかったものの。
秋野がリビングにいなかったことに対して、少しばかり寂しいと思ってしまった自分に驚きながら、都は苦笑した。

「……………?」

リビングのテーブルの上に視線を向けた都は、其処に置かれている食器を不思議に思いながらも、近付いた。
秋野が食べ終えたものを片付けずに出かけることは、まずないことを知っている。

【水で済ますつもりなら食っとけ】

食器のすぐ傍に置かれていたメモ帳に記された文字列を見て微笑んでいたものの、都自身はそのことには気付かなかった。
そっとなぞるようにその文字に触れ、考える。

(どうしてだろう、)

普段なら煩わしいと、気にしないで欲しいと思うような事をされたところで、煩わしさではなく、胸が暖かくなるのは何故なのだろう。
考えてみたところで、今の都には答えを出すことはできなかった。

2011.12.15
修正 2015.01.16


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