Their story | ナノ


Their story ≫ 2

安堵 (side.E)

目を覚ました都は、不思議なことに気分が良いと思った。
そう思った理由は分からない。ただ、都にとって気分よく目覚めることが出来るのは、本当に稀なことであるため、自分自身でも不思議に思いながら、心なしか軽い体で自室をでてリビングへ向かう。

「…………滋くん、」

リビングに入ったところで、都の目に映ったのはソファーで眠る秋野の姿だった。

(部屋に入るの、面倒だったのかな)

自室に入ることの方が面倒ではない気がするものの、扉を開ける手間を考えるとそうでもないのかもしれない。
なんとなく傍により、秋野の顔を眺める。
やはり、綺麗な顔立ちをしている。と、思った。
この学園には見目が良い者が多い。顔が悪いからと言っていじめがあるわけではないが、やはり、多少生活し辛いと聞く。反対に、顔が良くてもいろいろと問題が生じているらしい。そういう意味では、自分の顔が平凡に類するもので良かった。と、都は思っている。

「こんなに綺麗なのに、」

噂で聞いた秋野からは、こんな風に無防備に眠ることはないようなイメージを受ける。

(親衛隊、持ってないって、ほんとなのかな)

一ヶ月と少しの間。同じ部屋で、時折同じ時間を秋野と共に過ごしている都は、噂はあてにならないものだ。と、思う。少なくとも、都にとっては。

「―――――――ッ」

唐突に息をすることが苦しくなり、ひゅ、と、空気を吸い込もうとする。

「っは、」

秋野の前でこうなるとは思わなかった。
思いながら、チカチカする目の前に困惑していれば、目を開いた秋野と、都の視線が交わった。

「おまえ、」
「―――っ」

何か、言いたいのに。気にするなと言いたいのに、言葉が出てこない。実際そう言った後の事を考えた時、何故か胸がチクリ、と痛んだが、その理由が都には解らなかった。
どうしよう、と秋野から視線を逸らし、床を見つめていた都の背に、暖かい何かが触れる。それが、秋野の手だと気付くのにそう時間はかからなかった。

「っ、しげ、るく…?」

息をするのが苦しくて、涙まで出そうになるなんて、みっともないと思いながらも、秋野の手のぬくもりに安堵している自分がいることに、都は気付いた。

「、―――――は、」

普通に息ができるように、と、考えながらどうしようかと思っていれば、体全体が温もりに包まれた。

「平気か」
「――――――ぅ、ん」

あやすように背を撫でられ、不思議と、都の呼吸は落ち着いた。

(なんで?)

こんなこと、今まで一度もなかった。
そんことを思いながら困惑気味に秋野を見上げれば、また、視線が交わった。

「ごめ、ん……」

思わずそう言っていた都の耳に、舌打ちが届き、どうしよう、と思っている間に、秋野に違う、怒ってるわけじゃねェ、と言われ、都はその言葉に、安堵した。

2011.11.03


copyright (c) 20100210~ km
all rights reserved.
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -