Their story ≫ 2
享受 (side.E)
人がいる、気配がする。
都は瞼を開けた。
意識を手放すように眠ってしまった都は、自分がいる場所がどこであるのか理解できず、ベッドの上に身を起こすと辺りを見渡した。
シンプルな室内、自分の部屋の中とは少し、異なっている。
以前秋野が熱を出したときは、それほど室内を見たりはしなかった。今は、別だ。ベッドから立ち上がろうと床に足を付け、腰を上げようとした瞬間、都の視界はぐわん、と揺れた。
「ぅー」
ああもう本当に、情けない。
そう思いながら、ぽす。と、秋野のベッドに倒れこむ。
こんなこと、今までの同室者相手ではありえなかった。と自分で自分の行動に驚きながら、不思議と安心している自分がいることに、都は気付いていた。
すん、と布団の匂いを嗅ぐ。
「んー…」
「起きたのか」
「滋く、う、」
「馬鹿か。いきなり起きようとするからだ」
うつぶせになっていた都は、秋野の声が聴こえた瞬間、がば、と起き上がろうとしたが、そのまま布団に逆戻りした。
ぽす、と、音がする。
「ごめん、ね」
迷惑かけちゃった。
都の言葉に、秋野は答えない。
どう答えればいいのかわからなかったために黙っていたのだが、それが分からない都は、本当に申し訳ない。と、罪悪感を募らせた。
ふわり、と、都の髪に、何かが触れる。
(―――――――手?)
わしゃわしゃと、それでも優しく髪を撫でられ、都は自分でも気づかないうちに、笑みを浮かべていた。
「―――――――ありがと、」
やっぱり、怖くなんかない。
都はそんなことを考えながら、秋野の行為を受け入れていた。
***