Their story ≫ 2
ベランダ (side.A)
何処か悪いのだろうか、たまに顔を合わせる同室者について、秋野は考えた。
今も、一瞬目を閉じたかと思えば、次の瞬間には体を傾けていた。思わず手を差し出し、支えてしまったのは何故なのか。いつもならば放っておく秋野は、このところどうもおかしいと思いながらも、都の体を支えていた。
「――――――、あ、りがと…」
「―――――――、」
答えなければ、都の顔が微かに歪められた。泣きそうだと思うものの、どうしたらいいのか分からない秋野は、都が自分で立ち直るまで、そのままの体制でいた。
(居心地悪ィ)
そんなことを思った秋野は、煙草を吸おうと思ったが生憎と先程自分の手で消したばかりだった。
今更出すのも憚られる。
「ありがと、もう、平気」
「―――――、気を付けろ」
こんなとこで倒れたら、ぜってぇいてぇ。
そう思いながら秋野は辛うじて、それだけを吐き出し、都を支えていた手を離した。
あの、と、言いにくそうに口を開いた都を、秋野は見る。
ただ見ただけで、仲間以外の誰もが体をこわばらせるものの、都は先程と変わらない態度で、秋野を見ていた。
(―――――、変なヤツ)
こう思うのは何度目だろうか、と秋野は思う。
「秋野くんは、さ」
「―――――滋」
「え…?」
「滋でいい」
気付けば、そんな事を言っていた。
困惑したように、数秒、うー、とかあー、とか言いながら視線を彷徨わせていた都は、わかった。と、頷いた。
「じゃあ、おれのことも、都って、呼んで」
「………あぁ」
何故、下の名前を呼んでもらおうと思ったのかは、解らない。秋野からそれを言ったのは、もしかしたら初めてのことかもしれない。
(ハルに言ったらぜってー笑われるな)
暫くは言わないでおこう。
秋野は思った。
「滋くん」
「―――、何」
くん付けかよ。
思わず笑いそうになったのを堪え、秋野はそう返した。
「字、綺麗だよね」
「ハ?」
思わず間抜けな返事を返した秋野に、慌てたように都は言う。
「え、と、ほら、いつも返事…、その、みて、そう思ってて!」
「……………ドーモ」
そう言う都の文字だって、綺麗だろ。と秋野が言えば、都は何故か驚いたように目を見開いた後、笑った。
***