Their story ≫ 2
ベランダ (side.E)
定期健診でこそないものの、都は学園備え付けの病院で月に一度、診てもらうことになっている。それが、学園に入る時の条件だった。
顔色が悪いから、と、溝口に部屋まで送ってもらった都は、カレンダーを見て、今日がその日だという事に気付き、病棟に向かい、検診を受けた。
「駄目だよ」
「……そうですか」
「当然」
病院の責任者である、宇奈月の言葉に都は渋々頷く。
今年は行きたかったんだけどな。と思いながらも、無理して出かけて他人に迷惑をかける事は都の望むところではないために、溜息を吐きながらも自分自身を納得させる。
椅子から立ち上がった途端に立ちくらみに襲われ、近くにあった机に手をついてなんとか堪えた都は、宇奈月の心配そうな視線を感じた。
「貧血は酷い?」
「いえ…大丈夫です」
その問いに、都は即答する。
一時期よりはマシになっているのだから、酷くはないだろうと、都自身は思っていた。
実際には、状態はあまり変わっていない。つまり、良くも悪くもなってはいないのだが、こういうものは気持ちの問題だと、都は思っていた。
「無理だけはしないように」
「はい」
都のそんな考えを察したのか、溜め息の後の宇奈月の言葉は、それでも冷たいものではなかった。
若干ふらつく足取りで寮部屋へと戻る。
途中、ドタバタと騒がしい集団が横切っていったものの、都には気にしている余裕がなかった。とりあえず、ぶつからなくて良かったと思う。ぶつかった場合には気を失ってそれこそ、大変なことになっていただろう。
室内に辿り着くと、無事に着けたことにホッと息を吐く。
「行きたかったなぁ、」
外の空気が吸いたくなり、ベランダに出た都は、先客がいたことに驚いた。
「…………秋野、くん」
「――――――、」
相手もまさか都がベランダに来るとは思っていなかったのか、驚いた様に目を見開いていた。
陽の光に透けて、赤色が綺麗だと、都は思った。
「煙草、吸うんだ」
ポツリ、と言えば、秋野はまだあまり吸っていないように見える煙草を、足元に落とし、火を消した。
「―――――――、」
勿体ない。と言おうとしたものの、秋野がそうした原因が自分にあるかもしれないと思うと、それを言ってはいけない気がした。
外の空気を吸いたくてベランダに出たものの、秋野と一緒の空間にいることが何故か気恥ずかしく思えた都は、早々に室内に入ろうとしたが、その瞬間視界が揺れた。
(あ、倒れる――――、)
捕まるモノが近くに在ればよかったのに、と思いながら、来るべき衝撃に耐えるために、都は反射的に、目を瞑った。
***