Their story | ナノ


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夢現 (side.E)

懐かしい夢を見たような気がする。

都は起きぬけにそんなことを思った。氷枕の氷はとっくに溶けているようで、持ち上げればとぷん、という水の音しかしなかった。
まだ少し気だるい体を起こし、都はキッチンで氷枕を作り直した後、コップに水を汲んで部屋へ戻ろうとしたところで、リビングのテーブルに置いてあるものに気付いた。

「―――――、」

紙に書かれた文字を見て、微かに笑みを浮かべる。
椅子に座り、置かれている料理を口にした。誰かの作るものを食べるのは久しぶりだ、と思いながら。

(おいし、)

秋野って、料理できたんだ。
的外れな事を思いながら、都は自分の頬が緩んでいるのを感じていた。
人の優しさを素直に嬉しいと思えたのは、いつ振りだろうかと思いながら、ゆっくりと食べ終えると食器を流しに置く。机上に置いてある薬袋の中から錠剤を取り出し、口に入れると水で流し込む。
紙にお礼の言葉を書き、自室へ戻る。
幼い頃の都は今まで以上に体が弱く、療養のために田舎に行くこともあった。人気の少ないその場所で、滅多に外に出れない自分の元に、屋敷に忍び込んで話し相手になってくれてた子供がいた。
どうやって入り込んでいるのかも、どうして話し相手になってくれるのかも分からなかったが、それがただ、嬉しかったことを覚えている。
今日で忍び込めるの最後なんだ。と言った彼と、確かに何かを約束した。それが何だったのかも、約束をした相手が誰だったのかも、都は思い出すことが出来ない。

(忘れちゃったなぁ)

確かに、自分はその子のことを呼んでいたはずなのに思い出すことが出来ない。
最も、小さい頃の思い出だから仕方ないことなのかもしれないが。
それでも、暖かくて楽しくて、嬉しかった思いだけは覚えている。
忍び込んできた子が女だったのか男だったのか、それすら曖昧だったものの、その子と話したお陰で今の自分があるというのも事実のように思えた。

「――――――ぁ」

唐突に思い浮かんだ映像を、頭の中で反芻する。

(笑顔、)

笑った顔が、とても好きだった。
名前を思い出せないものの、陽だまりのような笑みを浮かべていたことを思い出し、何故か暖かい気分になった都は、布団に潜り込み、目を閉じる。
もう一度眠って、起きた後に考えれば、他の事も少しは思い出すことができるだろうか、と考えながら、眠りについた。

***


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