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B

あの日から。美術室の鍵を彼に返してしまってから、数か月が経ってしまっている。
生徒会役員と話し合い、過剰に構われることがなくなり、彼らの親衛隊とも和解し、クラスメイトや同室者ともどうにか、それなりに接する事が出来る様になったものの、なんとなく、あの場所に行く勇気は持てなかった。

「―――――――、」

名前も聞いていない彼は、本当に学園の生徒なのだろうか。もしかしたら、自分の目が生み出した幻なのではないだろうか。そんなことを、考えてしまう。片手間に彼の姿を探してみても、学園内の何処にも見当たらない。それこそ、隅から隅までみたわけではないものの、それなりに話せるようになった同室者に彼の特徴を述べて尋ねてみても、そんな人は知らないとのことだった。

「ううう」

一応、でも。もしも本当にいるのなら、問題は解決したと報告をしに行きたいと思いながら、その場所へと足を向けた。依然来た時とは異なり、どこか古びていると思いながら、それでも、足を踏み入れる。不思議な事に、鍵がなければ開かないはずの窓は、簡単に開いた。

「けほっ」

どうしてこんなに埃っぽいのだろうかと考えながら、彼の姿を探したところで、見当たらなかった。周りを暫く見渡してようやく、彼の姿が描かれているキャンバスを見つける事が出来たくらいで。彼の姿は、無い。

「まさ、か……」

本当に幽霊だったのかと思いながら、どうしようかと視線を彷徨わせていれば、カタリ。と、音がした。次いで、足音も。段々近付いてくるそれを、怖いと思いながらも、声を出すことも動くことも出来ず、どうしようかと狼狽えていれば立てつけが悪かったのか、がたがたという音の後、美術室の扉が開かれた。

「―――――――――ん?」
「ひぃいっごめんなさい悪いことはしてないんで殺さないでくださいお願いしますすみませんっ」
「君、どうやって入ったの?」
「…………へ?」

まるで時間が止まったかのような錯覚に陥り、気付いた時には彼の姿が描かれたキャンバスを抱きしめてしまっていた。呆然としながらも普通に窓から入りましたと答えれば、彼は酷く、驚いているようだった。

「ふぅん。鳴嘴の言ってたことは嘘じゃなかった、ってことか」

しっかし時空を超えるとか非科学的なのはちょっとな、とか、なんとか。言っている彼を見つめていれば、キャンバスを指さされた。

「それを回収しに来たんだけど」
「へ?これ、です、か…?」
「君、其処に描かれてる人に、会いたい?」
「―――――いるんですかっ?!」
「………いる?」
「あ、い、いえ、その…」

幽霊とか、じゃ、ないかと思っていたので。
そう言えば、楽しそうに笑われた。

その後、埃っぽい美術室を後にして、古びた昇降口から外に出て、キャンバスに描かれている人の名前とキャンバスを取りに来た人の名前を知って、後日、彼等と食事をすることになったのは、また別の話。

2013.11.07 // end


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