きれいな華には毒がある
※転入生と親衛隊総隊長
きっと。きれいな華には、毒がある。死をもたらす、毒性が。
季節外れの転入生は美人だった。それはもう、ものすごく。どことなく儚く、影があり、生徒会役員やその他、親衛隊持ちの美形の心を、次々と射止めていった。だからと言って、誰とくっつくわけでもない。要するに、彼らは転入生の手の上で転がされている。良いように、使われている。その証拠に、学園は転入生が過ごしやすい環境になりつつある。本来学園全体の為に働かなければならないはずのソレは、転入生のみに作用している。最も、それに気付いている者は少ない。元から毒性を持っていた者しか、気付けてはいない。
(―――――――辞めるかなぁ)
此処までお金を出してもらって、申し訳ない気もするけれど。
そんなことを考えながら、上からの指示を無視して、一人。庭園を歩く。新しく取り決められた規則に反する行為であったとしても、この庭園は転入生一人のものではないのだから。それに。転入生に忠告や制裁をするよりも、面白おかしいことはほかにある。もしかしたらもしかすると。彼に出くわせる可能性があるのだから。
「―――――此処は僕の許可が無ければ立ち入ってはいけないことになってたと思うのだけど」
噂をすれば、影。なんて。考えていただけだけれど。その言葉に、そもそも学園はあなた一人のものではないのです。そんなことを思いながら、ニコリ。と、笑った。
「そうでしたっけ?知りませんでした」
知らないで済まされるはずがないそれを言えば、転入生の後ろから、生徒会役員の方々が出てきた。またぞろぞろと。まるで金魚の糞の様に。綺麗な華に群がる虫や蝶の様に。ああ、だけど。綺麗な華が、毒を孕んでいたら、行く先は、死。しか、ない。それはすこし勿体ないような気もする。こうなる前の彼らのことを、割と好いていた身としては。
「君が知らないなんておかしな話じゃないかな」
調教でもされているのか、睨んでくるだけに留め、何も言ってこない生徒会役員の皆様を見て、そこに以前とは異なる光を見つけてしまって。人というのは落ちようと思えばどこまででも落ちてしまえるものなのだと、妙に納得してしまった。と、同時に。似合わないと。そんなことを感じてしまった。
「そうでしょうか?」
「だってそうでしょう。生徒会親衛隊をまとめている、総隊長である君が知らないはずは「ありえるかも、知れませんね」え…?」
彼の静かな涼やかな声を遮って、庭園の花に触れながら言う。その華には毒が。と、会計様が呟かれた気がしたものの。こんな毒、実際には無害なのだから気にしない。綺麗なものは、愛でるに限る。ふわり、と撫でれば、華が笑んだような気がした。
「親衛隊を纏めているからと言って、総てを知っているとは、限らないじゃないですか」
笑って言えば、彼の表情は醜く歪んだ。
「総隊長とは名ばかりで、気付いた時には下は勝手に動いていたりするのですよ」
毒花に蝶が止まり苦しげに羽ばたいたかと思えば、花に触れていた手に止まる。
「―――――それは君の管理がなっていないんじゃないのかな」
「ええ。そうでしょうね」
あっさりと認められてしまって驚いたのか、彼は目を見開いている。
「現に先ほども、上級生からあなたに制裁をするように。と、仰せつかってきましたから」
勿論、そんなことをする気は少しもないのでこうしてふらふらしていたのですが。言えば、彼の後ろにいた生徒会役員の方々の目が、見開かれる。
「ですが、生徒会役員様方でも管理出来ないそれを、平々凡々な僕が管理しきれると、本気で思っているのですか?そこまで買っていただけているのならば、それほど光栄なことはありませんが」
ついでとばかりにそう云えば、彼だけではなくその後ろにいる彼等の表情も、歪んだ。
「そもそも。考え方も何もかも違う個々を完全に完璧にまとめあげるなんて、素晴らしく無茶な話ではありませんか。そうは、思いませんか?」
洗脳、とか、出来れば話はまた別でしょうけど。
ついでに余計なひと言を付け加えた上で、そう尋ねれば転入生は唇を噛み、切れてしまう。と言いながら、会長様が優しく彼の唇に触れていた。それを見たところで、何も思わないのだけれど。してやったりという様に彼に微笑まれてしまい、苦笑を返せば綺麗な顔が、殊更に、歪む。それはまるで毒を孕んでいるかのようで。
「――――――君は一体何なの?」
なんなの?と、言われましても。ただの生徒です。残念なことに毒に身を溺れさせることも出来ず、ただただ、もがき苦しむそれだけしか出来ない。ただの、
「ああ、死んでしまった」
心の中で答えたところで意味がないのに、ついつい、そうしてしまっていたために口から洩れたのは、まったく別の言葉だった。
手に止まっていた蝶が羽ばたかなくなり、乾いた音を発て、地面へと落ちる。毒に侵されれば結局は、こうなるしかないのだから仕方がないと言えば、仕方がない。呟けば、彼は信じられないと言いたげに、こちらを見ていた。
「どうして僕の言う通りにしてくれないのかな」
初めて尋ねられた自分本位な言葉に、笑みを浮かべるしかなかった。
「きれいな華には、毒があるでしょう?」
「―――――?」
「その華に対抗するために自らが毒を持っていたとしたら、毒に支配されることなく、あがくしかないんです」
「―――――――――なに、を」
転入生は確かに、毒を孕んでいるけれど。それ以上の毒を内包していれば、支配されてしまうことも飼われてしまうことも、ない。
「そうですね。身をもって、知ってもらった方がいいのかもしれません」
あなたの毒は、恐らく、僕の持つ毒性には敵わないでしょうから。ですから。ゲームをしましょう。あなたは、ただただ、守ればいい。あなたが手に入れた人たちのことを、僕に奪われずに、守りきれれば、あなたの、勝ち。
今までつけていた仮面を外して微笑めば、彼だけではなく、彼の後に続いていた者達の目も、見開かれた。
2013.06.15
もともとの彼等が好きなので、『僕』は生徒会役員その他人気者のフィルターを取り除いてあげるだけです。主人公の言う毒は中和剤程度に考えていただければ。