現実と甘言
※有吉→←斎賀
「臨発見ー」
「恭平」
屋上のタンクの上、寝転がって空を見上げていると何かが当たり、誰が犯人かと思っていれば、恭平の姿が現れた。
「それ、好きだろ?飲めよ」
俺もさぼっちゃおー。と、授業開始のベルと共に恭平は言う。そんな彼を馬鹿だなあ。とも、思う。
「おまえな…」
「まぁ、飲めって」
紙パックのジュースを差し出してこられた。仰向けに寝転んでいたからか、差し出されたものを受け取らずにいれば、胸のあたりに置かれた。仕方なく起き上がり、紙パックを手に取る。
(コーヒー牛乳)
しかも、おれが好きなやつ。それだけでテンションがあがってしまうあたり、厳禁だなと自分でも思う。
「で、今日はなんでサボリ組み?」
お前、いつもはさぼんねぇべ。此処、俺の特等席。まさかお前がいるとはな。との言葉に、じゃあこれは何だ。と紙パックを見せて問いかければ、二つとも俺が飲もうと思ってましたとも。と、楽しげに返された。
「古我から布留川が俺のこと忘れてたって聞いた」
「へぇ」
「やっぱり、寂しいもんだなー」
ふぅん。と、大したことでもないように恭平は言った。だけど、と、続けた言葉に、皮肉気に笑われる。まるで、知っているとでも言うかのように。もしかしたらもう、随分前から恭平は気付いていたのかもしれない、おれのこの気持ちに。
「―――――、恭平が俺ん事忘れたら、凹むと思うんだけどな」
「あー、うん」
多分、忘れられないと思うからへーきへーき。心配すんな。
笑う恭平に、笑みを返そうとしたものの、笑い損ねた。いつの間にか寝転んでいた恭平の顔のすぐ横に手をつき、見据える。下から腕が伸びてきたかと思えば、優しく触れられた。
(手、冷たいな)
恭平の手が冷たいのは、珍しいことかもしれない。ぼんやりと思っていれば、唇に何かが触れた。
「――――――――――ッ!?恭平!?」
「忘れろって言われても、俺は忘れない」
好きだから。と、言われ、俺が先に言いたかったのに。と、返せば、今から言えば?と、笑われた。立てていた腕を倒し、全体重を恭平にかけたところで、返ってきたのは優しい抱擁だった。
2012.10.29