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スカーレット

※(医者×)副会長←副会長親衛隊隊長


全部全部忘れてしまおう。
流れる“赤”と一緒に。
全てを、流して消してしまおう。

「―――――――、」

ふ、と、目を開ければ見知らぬ人。
そう言えば自分の名前もわからないな。と、思った。
僕は誰で、否、そもそも僕?それとも、私…
思い出せない。
と、言う事はもしかしたら。
思い出す必要がないのかもしれない。

「良かった」

何が、良かったのか分からない。
目の前を“赤”が横切った。
それが何なのか分からない。
“色”は確かに、知っている。
分かっている、のに、識らない。

「――――――、」

ああ、話し方も分からないな。
考えることはできるのに、話すことが出来ない。
此処は、どこだろう。

真っ白な、カーテン。
真っ白な、壁。
真っ白な、シーツ。
真っ白な、窓。

嗚呼、きっと、“赤”がよく映える。

「―――――――、ぁ」

ああ、そうだ。
声はこうやって出すんだった。
少しだけ、何かを思い出した。
けど、多分大切な何かは忘れたままだ。

俺、なのか、僕、なのか。それとも私、なのか。

目の前にいる人が誰なのか分からない。
酷く安心した表情をしていたけど、誰だかわからない。

「アンタ、誰?」
「……………っ、ごめん、なさい」

やっぱり。と、言いながら、彼は何かを押した。
ナースコールだったかもしれないし、そうじゃなかったかもしれない。
兎に角、女の子みたいに見える男の子は、謝ってきた。

「や、別に、いいんだけど…」

俺、自分の事もわかんねーんだよなあ。

そう言えば、呆然とした顔をされた。
もしかしたら、こういう口調ではなかったのかも。
思い出せないからどうしようもないけど。

(だって、自分の名前、性格、とか。いろいろ、思い出せない)

多分大事なこと、すっかり忘れてしまったんだろう。
ただ、“赤”だけが鮮明に、瞼をおろしても再生される。

「ごめんなさい、たすけられなか…っ」
「なんで、アンタに、謝られてるんだ?」

漸く、目が覚めてからずっと思っていた言葉を口にした。

「俺は、誰―――――、」

はっ、と、息を呑んだ音が聴こえた。謝罪が続く。
理解できない謝罪は、白い白衣を着た人が現れるまで、続いた。

「退学になったよ」

うん、言葉の持つ意味が分からない。
君を傷つけた人たちは訴えられ、退学になった。君が集めていた証拠と、彼等によって退学にされた生徒たちの協力によって。かわいそうだが、当然の報いだ。

「何の話、ですか」
「生徒会副会長、君の通っている学園の話だよ」
「…………名前は?」

俺の、名前。
そう言えば、白衣を着た人は、笑った。

“赤”が似合いそうな、表情だと思った。

2011.10.07


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