好きだよ
※転入生そっちのけ
好きだよ、好き。愛してる。だから、ねぇ。俺から、離れないで。離れて行かないで。あんな子なんて、見てないで俺を見てよ。ねぇ。大好きなんだ、俺から離れるなら、俺を殺してからにして。他の人を好きな比呂なんて、見たくないんだ。だから。
壊れたレコードのようにそう繰り返す、和俊を、僕は抱きしめた。
転入生の事?知らない。周りは騒がしいけど、僕らにとってこれは普通。いつもの事。転入生に近付いたのは、少し、離れられたらいいかな、って思っただけだった。和俊から。けど結局、僕は和俊から離れられない。離れたくない。
「な、んで……」
呆然としたように呟く転入生。君はきっと、酷い拒絶をされたことなんて、なかったんだろうね。けど、ダメだった。和俊は僕以外を、拒絶する。どうしたって、結局、僕以外を認めない。僕はそんな和俊の想いが、重すぎて、離れたいと思った。一回、離れれば現実が見えるかと思った。けど、違った。
「好きだよ、和俊。だから、殺さない」
ずっと、そばにいる。
中等部から時々、繰り返される僕と和俊の遣り取り。君がいくら魅力的な人だったとしても、僕らの世界は閉じている。双子でもない、血の繋がりもないけど。だけど、だからこそ、二人だけで完結している。どうしたって、きっと。
「ごめんね」
僕のその言葉は、一体誰に向けて言ったものだったのか。
(きっと、和俊以上の“特別”、なんて、できない)
そんなことを思いながら抱きしめれば、同等のものが返ってきた。
「ど、うして!なんでだよ!!」
「やめて、比呂に触らないで。比呂を取らないで。俺から比呂を、奪わないで」
こうなったらもうだめだと思いながらも、その執着心が嬉しいと思う自分がいることも確かで、笑っている僕をおかしい、と、喚く転入生に、反論しようとした和俊の口元を掌で封じて、代わりに口を開いた。
「君のその、おかしい、の基準は何?僕らにとってはこれが普通。これがすべて。中等部の頃からずっとこうだった。どうしても、どうやっても、これ以外の関係になることはできなかった。周りだってその事を知ってる」
そうでしょう?と、持ちあがり組の事を眺めまわせば、転入生が来る前はそうだったことを思い出したのか、大半が頷く。
依存し、依存された状態。それが、和俊と僕の関係。異常な程執着しあって、依存しあって。それが、普通。その普通を壊そうとして、結局そうできないのも、普通。
「君の基準で、僕等の事をはからないでくれる?虫唾がはしる」
「比呂、」
「んぅっ」
なんで、こういう大事な話してる時に仕掛けてくるかな。と、思いながらも抵抗はしない。抵抗する気も起きない。
「な、がいっ」
「ごめん。久しぶりだったから、つい」
好きだよ、比呂。大好き。
そう言われて、じわり、と心が暖かくなった。転入生は、虜にした奴らにでも慰められてほだされればいいと思う。
「――――ん」
もう言うこともないし、と思い、和俊の手を取って歩きはじめた瞬間、後ろから転入生に何かを言われた。
だけど、それを聴いたところで僕らの関係は変わらない。僕と、和俊の関係は変わらない。何一つとして。
だから僕は、聞こえていない振りをして、和俊の手を引いてその場を後にした。
「比呂」
「部屋についてから、ね?和俊」
笑いながら言えば、嬉しそうな表情をされて、僕まで嬉しくなった。
2011.09.29
加筆修正:2011.11.05
*こんなんだけど和俊×比呂