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キミ、だぁれ?

※記憶喪失/雰囲気系


何やらぼくは、記憶喪失らしい。しょうにいからそう聞いた。

しょうにい、っていうのは、ぼくの一つ上の近所に住んでるお兄さん。なんでかぼくが目を覚ますのを、待ってたらしい。三日?だって。ぼくの目が閉じたままだったのは。どうしてそうなったのかは分からない。だって、思い出せないのだから。なんかいろいろと、ぼくの通っている学園が大変なことになっているらしいけど、他の場所に転入とか今更だし(どうやらぼくは今、高校二年生らしい。一年生になったばかりだと思ってたのに、知らないうちに時間が進んでいて驚いた)断った。断れば、しょうにいにすごく、ものすごく微妙な顔をされたけど、解らないものは分からないから。と、思ってぼくは学園に戻ることにした。

それにしても、ぼくの記憶は、どこにいっちゃったんだろう。

ツキン。と、学園の門を目にした途端、頭も胸も痛んだ。どうしてかは分からない。どうしてだろう、と考える。考えてみても、解らない。ぐるぐるぐるぐる。ぐるぐる。

「戻ってきたんですか」
「え」

門をくぐった途端、声をかけられた。戻ってこなくても良かったのに。と、続けられた言葉に、冷たい視線に、この人は誰だったけ。と、思い出そうとする。目の前の彼が、誰なのか全く、思い出せない。おかしいな。こんな美形、一度見たら覚えていそうなのに。ぼくからは絶対近づかない様な美形から、まるで知り合いの様に声をかけられる覚えがない。

(親衛隊、怖いから近付きたくないし)

そう思った自分に、驚く。どうして、僕は親衛隊が怖いと思っているんだろう。わからない。前はそんな風に思ってなかった気がする。中等部の頃は。よくわからないけど、この人、この人に近付きたくない、イヤダ。早く、早くそばを離れたい。そんな思いばかりが渦巻く。気付けば、ぼくは口を開いていた。

「―――すみません、急いで、いるので」

美形は、ぼくに関わってこないでください。と、心の中で告げて、そばを走り去ろうとすれば、腕を掴まれた。

「なんですか」
「――――――――、」
「なんなんですか」

気色悪い。何か言いたいことがあるなら早く言えばいいのに。とにかく、離してほしい。早く、早く離してほしい。そんなことを思いながら、彼を睨み付ける。彼の名前なんて、解らない。彼が誰だって、どうでもいい。美形には関わるな。僕の中で、警報が鳴る。うるさいくらいに、心臓が動く。思い出せないのに、憶えてる。

「離してください!知らない人に引き留められる理由なんてぼくは持ってません!!」

言って、彼の手を振り払った。嫌い。この人、すごく嫌い。なんだか、すごく嫌だ。そんな事を思って、その場を走り去った。だから、ぼくは気付かなかった。ぼくが走り去った後、彼が何かを悔やむかのように、目を伏せたことなんて、知らなかった。

「なんなの、」

今の学園はとても荒れているけど、本当にいいのか。と、しょうにいに言われたことを思い出す。ああ、でもまさかだって、こんなに変わってるだなんて、思わないもの。思ってもみなかったもの。知ってたらきっと、ぼくは戻ってこなかった。今からでも遅くない?あれ、ちょっとまって。なんでしょうにい、ぼくの通ってる学園の現状を知ってるの?

「わけ、わからない」

ぐるぐるぐるぐる、頭が回る。だけど何も、思い出すことはできない。周りの視線が痛い。その視線の理由を知っている気がしたけど、思い出せないからわからないまま。ああ、過去の自分が恨めしい。思い出せないまま、失礼します。と、職員室の扉を開いた。

「あー!!!やっと帰ってきたんだな!!ユリ!」

黒い、不清潔な髪をした誰かに言われる。彼に、彼は、彼――――
気付いたらぼくは走っていた。嫌だ、あの子は、あの子は嫌だ。何も思い出せないのにそんな思いだけが渦巻く。走る、走る。後ろから聞こえてくる声なんか、知らない。知りたくもない。なんでそんなにぼくの名前を呼ぶの、ぼくは知らない、君のことなんか知らない。知らないのに怖い。すごく、君の事が怖いんだ。ねぇ、誰なの。君は、君たちは――――、

パシッ

腕が、捕まれた。ああ、捕まってしまった。

「なんで!なんで逃げるんだよ!!!俺達親友だろ!?ユリ!!」
「―――――――、」

なんで周りに美形がいるの。なんでぼくのこと睨んでくるの。痛い思いはしたくない。好きでもなんでもないのに。どうして。嫌い。美形なんて、嫌い。大嫌い。どうして嫌いかなんて、解らないけど思い出せないけど、とにかく、嫌い。近付きたくない、嫌い。特に、今、腕を掴んできてる人とか、その後ろにいる人たちとか。思い出せないけど、関わったらダメ。って、頭の中が酷く騒がしくて、割れそうに、痛い。

「――――――い」
「え?」
「ぼく、きみのことしらない」
「な!!」
「あと、きみの後ろにいる人たちも、誰か知らない」
「な、なんでそんなこと「知らないものは、知らない。思い出せないものは、思い出せない。放っておいて。思い出したくないんだから!!なんで睨まれなきゃいけないの!?知らない人に!!ぼくは何もしてないのに!何も出来ないのに!!」――――っ」

腕を振り払った。振り払って、彼の事を睨み付けた。視界が滲む。けど、涙は零れない。ただ、なんとなく、近づいてほしくないだけで、その理由がなんでかは思い出せなかった。思い出せないけど。近付かれるのがすごく嫌だと思って睨み付けていれば、目の前の人もその周りの人も、呆気にとられた顔をしてた。

「嫌い。大嫌い。近付かないで。なんでかわからないけど、嫌い。触らないで思い出させないで忘れたままでいさせて近寄られるなら、思い出すくらいなら、死んだ方が、マ「ゆり」シ………しょうに、い?え?」
「それ以上言うな、ゆり。こいつ等には俺が説明すっから。それより、何か思い出したのか?」

なんでしょうにいがここにいるのか、なんて分からないけど、後ろから目元を知っている温もりに覆われて、少しだけ気分が落ち着いた。何か思い出した。ってことは、やっぱりしょうにいはぼくが失くしてしまった記憶の事を知っているのかもしれない。

「―――――、ううん。何も。何も、思い出せない。思い出してない。けど、嫌だ。この人、この人たち、だれ?なんで、知らない人に詰め寄られなきゃいけないの?それとも、記憶なくす前の知り合いだったの?ううん、知らなくていいや。美形なんて、嫌い。嫌だ。嫌い。思い出せないのに、嫌いって、嫌いだって、思うんだ。なんで……あれ、しょうにい、どうして此処にいるの?」
「思い出したくないなら、忘れたままでいろ。俺が、お前を守るから」
「しょうにい?」

しょうにい、ぼくの質問に答えてくれない。けど、しょうにいの腕の中は安心するから。ぼくは周りの騒音を聞こえないふりをした。黒いぼさぼさの髪の子が騒ぎ立てる声も、その後ろに立っている美形が痛みを堪えた表情をしていることも、見えないふりをした。
知らない、解らないよ。君の名前なんて、思い出せない。思い出せよ、と言われたって、思い出せないよ。だけど彼の声はうるさすぎて、それを無視できなくて、僕はやっとの思いで、しょうにいの腕の中から彼に言った。

「キミ、だぁれ?」

思い出せというのなら、まずは自分で、自分から名乗ってよ。仲良くなる気なんて、これっぽっちもないけど。

2011.09.19
加筆修正 2012.10.03
*しょうにい×ぼく、的な感じ。嫌なことは全部、忘れてしまいましょう。


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