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ずれてる

※とにかく髪が心配な転入生


いってー!!!と、彼は叫んだ。
数年前この学園にやってきたという『王道転入生』というカテゴリに、つい先日転入してきた生徒が類されると思っていた親衛隊総隊長‐呉乃亜紀(くれないあき)‐は、せめて制裁が始まらないうちに見目が美しい事だけでも周りが理解していればどうにかなるだろう。と、いう考えから、生徒会長をぶっとばした転入生‐小張末(おわりこずえ)‐の髪を鬘だと思い込み、盛大にひっぱった。そして冒頭に至る。

「いきなりなにすんすか!!俺の頭禿げたらどうすんですか!!!ただでさえじぃちゃん禿げててとーちゃんだって禿げてるっつーのに!!!!かーちゃんがもっさりだからもしかしたら禿げないかもしれないけど!!!39歳で禿げてる父を持つ俺の頭が仮にもしも万が一にでも禿げたらどうするんですか!!!!!!どう責任取ってくれるんですか!!??!」
「ご、ごめん、ね?」

困惑した呉乃は、とりあえず謝った。謝らざるを得なかった。と、いうか、小張の剣幕にタジタジになっていた。謝れば、今後俺の髪は引っ張らないでください、できるだけ。と、小張は声を落として言った。相当凹んでいるらしい。かと思えば、ぎゃ、と、小さく悲鳴をあげる。

「え、あの、」
「やっべー、どうしよ。壊しちゃった。怪我してるヤツいなかったかな。別にバカはどうでも良いけど他のヤツ傷つけてたらどうしよ。かーさんに殺される。やばい。ていうかこれ高そう。弁償できっかな。どうすればいい?どうしたら…あ」

ぶつぶつと独り言を言い始めた小張に、誰もが呆然とした。小張は、紅乃の知る王道転入生と、似ているようで似ていない。呆然とするあまり、紅乃は生徒会長が小張にキスをし、即座に彼が生徒会長を蹴り飛ばしたことなど、頭から抜け落ちてしまっていた。

「あの、さ、俺、どうしたらいいと思う?」

美人さん。と、小張が言う。美人って僕の事?と、思った紅乃は、へ?と、すっとんきょうな声を上げた。

「や、だって、モノ、壊したし…、アイツ、殴ったことは悪いとは思ってねぇけど…やっぱ、なんていうか、ほら、副会ちょ「楓」副会「楓」副「楓」だー!!!!もう!!!!うっさいっすよ!!!!!あんた俺に説明したじゃないっすか!!転入初日に!!案内してくれた時に!!!人気者は親衛隊がついていろいろ厄介なことになるって!!そりゃたしかに友達になるって言ったけど!!!けど!!!こんな一斉に嫌悪の籠った視線で見られてみろ!俺のお先真っ暗だ!!辞めろって?辞めろってか!?首席なめんなよばかやろー!天パなめんなよ!!雨の日とか最悪なんだよ、もう、超最悪!!とにかく、最悪!!俺だって好き好んでこんなもっさい頭に生まれてきたわけじゃないやい!!!顔が良いのに髪の毛が残念ね、ってよく言われるおれの気持ちになってみろ!!優性遺伝子が勝っちまったんだからしょうが……ちがう、そうじゃない。だからあの、マジ、このような場所で名前呼び強要すんの、やめてください。マジ、勘弁してください。自分が人気者だってこと自覚してください頼みます。後、友達になってくれるのは嬉しいです」
「………………ごめん」

小張のマシンガントークが終わると、しゅん、とうなだれたように副会長が謝った。それを見て、周りはシン、と静まりかえった。

「「ねえねえ!!」」
「これ以上厄介事に関わりたくないんで、勘弁してください」
「「なにそれ!!ひどーい!!!」」
「そっちがひどいです。俺、そこのバカのせいで転入して数日も経ってないうちから器物破損っていう問題起こしちゃったんですよ。せっかく友達になってくれた奴だって俺がこんなんじゃ離れ「ばかだなーおーちゃん。俺らマブダチだろ?」ありがと、くーちゃん…君が友達になってくれてほんとよかった。けど考えてみればおまえも美形だよな。そして俺の髪の毛はもっさりだ。禿げてないからまだいいとしても、もっさりだ。見目美しくない、もっさり!!!俺の平穏どこ行った」

ゲッソリしたように言う小張は、やはり『王道転入生』とは違うのかもしれない。

「えと、あの」
「なんですか?」

紅乃の言葉に、小張はゲッソリとした表情のまま、尋ね、続ける。髪の毛の事ならどうしようもないですよ。何をしようとどうしようとすぐもっさりに戻るんですから。嬉しいのか悲しいのか分からない。と。

「とりあえず、風紀委員に、「おい、騒ぎを起こしたのはどいつだ」……来た」
「あ。風紀委員ですか、もしかして」
「そうだが」

紅乃の言葉にかぶさるように、やたらと派手な人物が食堂に現れた。騒ぎを起こしたのがどいつだ、と聞かれると、小張はス、と手を上げた。それはもう綺麗に、垂直に。そしてその彼が近付いて来たとみるやいなや、盛大に土下座して言った。

「すみません!!ほんっとーにすみません!!!おれ、カッとすると周り見えなくなっちゃう性質で!そこに転がってるバカに出会い頭に気に入ったとか言われてキスされて、ファーストキス返せコン畜生、とか思っておもいっきり蹴っちゃったんですけど、その拍子にまさか食器とかいろいろ壊してしまうだなんて思ってなくて、もう、ほんと、なんか、多分怪我人はそこに転がってるバカだけなんで、それだけが救いなんですけど、とにかく本当にすみません。マジで……」

それはもう見事に、滑り込む勢いで土下座した小張は、何かに気付いたのかはた、と言葉を止めた。その何かに気付かなければきっと、多分謝罪を続けていただろう。

「あ。ああああああああすみませんほんっと、マジですみません!!食事の邪魔してすみません!!!!もうほんと、こんな天パですみません!もっさりですみません!!!もう、ほんと、何やってももっさりどうにかならなくてもうほんともっさり!!!って違うこんなこと言いたいんじゃなくてすみませんとにかくもうほんとすみません!!!俺に気にせず食事される方は食事を!!どうか食事を!!!!!」
「とりあえず、風紀室までついてこい」
「分かりました。すみませんもうほんと、もっさりで黒くて…じゃない、そうじゃなくて、ここ、片付けてからでもいいっすか?」
「片付けは気にしなくて平気だ」
「あ、そっすか。じゃあ、行きます。ついていきます。これ以上問題起こすのも嫌なんで。ほら、問題起こしすぎると禿げるって言うじゃないっすか。ほんと、お騒がせしてすみませんでした」

それはちょっと違うんじゃないか。と、風紀委員が思っていたことなど知らず、小張は歩き始めた彼の後に続いた。

「紅乃、お前も一応ついてこい」

思い出したように風紀委員に言われた紅乃は頷き、彼の後に続いて先に食堂を出ようとしていた小張の横に並ぶ。
食堂を出る直前、ふぁいとー、おーちゃん。と、言われたのに美形くたばれ。と、小張は言っていた。

2011.09.18


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