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サヨウナラ。

※退学する話


嗚呼、帰ってきたのか。
金籠明春は思い、投げ飛ばされたためか呆然としている転入生と、そんな彼を好いているために彼を投げ飛ばした人物を睨み付けている彼等から、視線を逸らした。
明春に、柔らかい声がかけられる。

「ただいま、明春」
「おかえり、冬時」

投げ飛ばした転入生に見向きもせず、自分に向かってきた声の主‐鍵守冬時‐を目の前に、明春は微笑んだ。きっと、転入生は自分の腕に抱きついていたために投げ飛ばされたのだろうと思いながら。

(だって、僕は彼のものだ)

そのままふわり、と抱きしめられる。だんだん力が入っていくために、きつく、痛いくらいに抱きしめられることになっても、そのせいで付けられた傷が痛んでも、明春は何も言わなかった。ただ、痛みでわずかに顔を顰めてしまったが。
転入生に何を言われても、転入生の取り巻きに何をやられても、親衛隊にどんな扱いを受けようとも変わらなかった明春の表情が、冬時を前にした途端、変化していく。
誰かが息を呑む音が聞こえた。
其れすらもどうだっていい、と思いながら、明春は目の前の彼を抱きしめ返した。
今まで何をされても受動的だった明春が、自分から行動したことが信じられなかったのか、転入生が大声で何かを言ったが明春には聞こえていなかった。

「どうする?冬時。君以外に目を付けられてしまった僕を、閉じ込める?」
「明春、」
「真っ暗な部屋に閉じ込めても、良いよ。冬時がそうするなら、許してあげる」
「どうしてそんなに傷だらけになっている?明春」
「冬時がさっき、投げ飛ばした転入生が原因、だよ」
「そか」

じゃあ、潰すか。と、いとも簡単にそう言った彼を、明春は止めた。そんなことはしなくていいよ。と。柔らかく、誰も聞いたことのないような声で。それを自分をかばったのだと勘違いした転入生は何か言ったが、やはり、明春には聞こえていなかった。

「あのね、冬時。冬時が、今月戻ってくると言っていたから、僕は今まで残っていたんだ。もともと僕は、学校になんて通えるはずもなかった子どもなんだから、辞めさせられても良かったけど、冬時が留学から帰ってきたときに僕がいなかったら、学校を壊しちゃうかもしれないと思って」
「さすがに、そこまではしない」
「そう?でも、冬時が戻ってきたから、もういいよね。やめても、いいよね?」
「――――――――、」

おうち、帰りたい。疲れ切った声でそう囁いた明春に、冬時は見る者を魅了する笑みを浮かべ、言った。

「そうだな、帰ろう」

せっかくだし俺も辞めさせてもらうか。
冬時は言うと、明春を抱きあげた。それを見て転入生が何か言うが、明春だけでなく、冬時にも聞こえていないようだった。

「それは困るよ、鍵守君」
「どうしてです?理事長。元々俺達はあなたに頼まれてこの学園に入った。それなのに明春は学園の生徒に傷つけられた。この学園に通う生徒は良家の息子、でしたっけ?聞いて呆れますね。明春が罰を下す価値もないと言うのならば、所詮その程度だという事だ」

笑いながら言う冬時の表情は冷たく、いつの間にかこの場に現れて発言していた理事長は、顔を強張らせる。

「それに、明春に何かあったらすぐに学園を去る、というのが入るときの約束だったはずだ」

最早敬語すら使わない冬時に、理事長は何も返せず、どうにかして彼を学園に引き留める術を探そうとしているのか、視線を彷徨わせていた。ぎゅう、と自分に抱きついてきた明春の背を、冬時は優しく叩く。

「明春は俺と同室、もしくは一人部屋。そういった約束もしたはずだ」

コイツを見る限り、それは守られていなかったらしい。父に報告させていただく。冬時がそう告げた瞬間、理事長は途端、体を震わせた。それだけは、と言う彼を冷たく一瞥し、冬時は明春を抱き上げたまま、歩き、そのまま学園を後にした。
その後その学園がどうなったのかは、知る人のみぞ、知る。

2011.09.16
補足*
鍵守冬時(かぎもりふゆとき)と金籠明春(かねこあきはる)
守り守られる存在。共依存。ただし恋愛には至らず。まあでも家に帰ったらそうなるんじゃないかなとか。転入生とか完全空気ですね。多分周りは結構騒いでいるんだろうけどこの二人には聞こえていないだけです。


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