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※病んでる会長親衛隊隊長+会長+副会長


会長である宰が戻ってきた。規模の大きい会長親衛隊は落ち着き、元より穏健派である僕の親衛隊も、当たり前のように落ち着いている。会計と書記の親衛隊は、どうなっているのか分からない。ただ、現時点で分かっているのは、生徒会のリコールが先送りにしてもらえた、という事だけだ。転入生絡みの騒ぎも、不思議なことに、少しずつ減っている。

「優理、少し休憩したら?今は宰様も、書記様も仕事をしてくださってるんだし」

春姫と僕は、幼馴染だ。人の目が全くない時だけ、春姫は僕の名前を呼んでくれる。だから僕は、春姫と二人きりの時間がすごく好き。会長には悪いけど、もうしばらく、独り占めさせてほしいと思っている。けど、もしかしたらそれも時間の問題かもしれない。
少し前までは確かに、会長様と呼んでいたのに、今では宰様と呼んでいる。

「うん、そうだね。ところで、いつまでそうしているつもりなの?春姫」

僕の部屋で二人きり。親衛隊の子たちは僕と春姫が幼馴染であると知っている上に、春姫の容姿が幸いして、忠告が少し、あるくらいで制裁には至らない。
不思議なことに、宰が謝りに来た数日後、書記が謝りに来た。だから今、いないのは会計だけだ。何が彼等をそうさせたのかは解らない。ただ、少しずつ、学園は持ち直し始めている。それはおそらく、宰本来の、力。敵対していた風紀とさえ手を組み、信用を、信頼を取り戻そうとしている。

ごぽり。

水槽の中で酸素が弾ける。春姫はただ、じい、と、水槽の中を泳いでいるサカナを見つめている。それを見て、僕は思う。彼は気付いているのだろうか。宰から向けられている視線が、熱を孕んでいることに。

「そういえばね、優理」

ナイフが、無くなっちゃったんだ。どこに行ったんだろう。僕の大切な、ナイフ。春姫が呟くようにそう言う。春姫の悪癖。綺麗なものを、よく壊す。

「まだ、花を育てては、散らしてるの?」
「うん。そうしないと、僕が僕じゃなくなっちゃう気がするから」
「そか―――」
「それより、ちゃんと休憩、してね?」

その言葉に、仕方なく手を休める。手を休めて、再び春姫を見た。その表情は、昏いように見える。
転入生より、学園内の誰よりも、春姫の過去は暗い。高等部に上がってから少しは明るくなったものの、未だ、過去を引き摺っている。僕では彼を救うことが出来ない。救ってもらうばかりで、与えてもらうばかりで。与えることは、出来ない。

「――――――気にしないでね、優理」
「ぇ、」
「ごめんね?こんな幼馴染で。だけど、僕は優理がいて、救われているんだよ?」

ちゃんと、救われているんだ。と言われた途端、視界が滲んだ。

「泣かないでよ、優理」

ごぽり。

水中から酸素があがる。水中にいるのに酸素が足りないのか、サカナが跳ねる。

ぱちゃん。

「もしかしたら、ナイフはもう、必要ないかもしれないから」
「―――――――ほんと、に?」

嗚呼、いつの間に彼はこんなに綺麗な笑みを浮かべるようになったのだろうか。過去から抜け出せていないのは、忘れられないのは、僕の方なのかもしれない。そんなことを思う。

「うん、完全には信じられないけど」
「いいんだよ、それで」

少しずつで、良いんだよ。と、僕は言った。春姫、君の事が好きだけど、君が別の人を好きになると言うのなら、応援しよう。

「応援してる」
「―――――――ありがとう、」

だから春姫、幸せになって。これまでの分も、誰よりも幸せになって。花のような笑みで笑っていてほしいと、そう思うんだ。

end.

2011.09.12
補足*
生徒会会長親衛隊隊長→高野宮春姫(こうのみやはるひ)
生徒会長→城川宰(しろかわつかさ)
副会長→香月優理(かづきゆうり)

優理→春姫(ただし恋愛感情であるかは定かではない)
宰→春姫、のち、宰×春姫になる?


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