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花とナイフとサカナ・前

※病んでる会長親衛隊隊長+会長+副会長


ぐさり。

花にナイフを突き刺す。どうすることもできない、歯がゆいこの感情を、どうしようか。どこに向けようか。会長の事が好きなわけではないが、生徒会会長の親衛隊隊長になってしまった以上は、この悪状況をどうにかしなければいけない。けれど、打開策など、思い浮かばない。

ぐさり。

花にナイフを突き刺せば、綺麗な花弁ははらり、と落ちた。転入生が来てからというもの、学園内は何処か騒がしく、落ち着かない。平穏な生活を望んだからこそ、親衛隊に入ったはずなのに、その平穏が脅かされている。ひどく落ち着かない気分になる。だからと言って、転入生に制裁をしようなど、思わない。他の誰かがそう思っていたとしても。

ぐさり。

はらり、と、また、花弁が落ちた。

「きれい――――――」

思わず、呟いた。どうしたら彼等を抑えることができるだろう。転入生の周りに群がる彼等のように、親衛隊隊員もまた、盲目的になっている。誰も彼もが、周りを見ていない。見ようとしていない。副会長様は一人、仕事をこなされている。彼の親衛隊は統率がとれているため、転入生に制裁を下してはいないはずだ。そして、生徒会会長親衛隊は、今はまだかろうじて、制裁に加わっていない。しかし、それも時間の問題だ。

「そうだな」

誰もいないと思っていたのに、と振り返れば、転入生に現を抜かしているはずの会長様が立っていた。僕の事を痛めつけに来たのだろうか。そんなことを思ってみるものの、考えがまとまらない。まとまらないから、花にナイフを、振りかざす。

はらり。

振りかざしたナイフは、しかし、花までは届かなかった。ただ、花弁は不思議と、地面に落ちた。手首を掴まれた僕は仕方なく、会長様の方を見る。地味に痛い。だんだん、自分の手から力が抜けていくのが分かった。ただ、手加減はしてくださっているようで、じんわりと、会長様の体温が僕の手首に伝わってくる。痛いのに痛くない、微妙な感覚。

「何を、してらっしゃるのですか?会長様」
「何故?」
「何が、ですか?」

質問の意図が解らず、疑問しか返せない。ナイフがカツン、と音を発して地面に落ちた。

「何故、花を散らす」
「何故、と、言われましても」
「あんなに大切に育てていただろう」

会長様の言葉に、息を呑む。誰にも見られていなかったはずなのに、何故、彼は知っているのだろうか。嗚呼、でもこの場所に来ているという時点で、彼は知っていたのだ。

「こうしていると、考えがまとまるんですよ?」

笑いながら、答えた。会長様の手は、僕の手首を掴んだまま。いつになったら離してくださるのだろうか。と思う。泣き出しそうな会長様の表情には気付かない振りを、しながら。

「春姫、」

会長の手が、僕の手首から離れた。自由になった僕は、静かに、そっと、落ちたナイフを拾った。やはり、会長様の前で花を散らす行為を続けるのは失礼かと思い、ナイフの刃を鞘に仕舞う。

「なんでしょうか?」
「春姫の目に、転入生はどう映っている?」

名前で呼ばないのか。と、思いながら、僕は答える。

「そうですね。与えられているにも、求められているにも関わらず、あくまで受け身。自分から与えようとはしない。求めようとはしない。ただの、わがままなお子様に思えますが?」
「そうか」
「会長様は、どう思われているのですか?」
「最初は、光だと思った」

確かに、光だと、思っていたんだ。でも、違う。アレは―――、
傷ついたように言う会長様は、多分、転入生の本質を理解したのだろう。よぉく観察してみれば解るはずなのに、きっかけがない限り、閉鎖的な空間ではソレに気付くことが、出来ない。歪みは歪みに惹かれる。だから多分、僕も転入生に惹かれた。ただ、近づくことは嫌だった。平穏が崩される、平穏が崩された時、僕は僕ではなくなる。だからそうなる前に、考えをまとめることが必要だった。そう、花にナイフを、振りかざして。
その衝動を無理矢理押さえつけて、僕は言う。

「会長様は今、どうされたいですか?生徒会室では恐らく、副会長様がおひとりで他の方の分まで、仕事をこなされています」
「―――――――――、」
「会長様。副会長様は、待っていらっしゃるんです。待って、いらっしゃったんです。今からでは遅いかもしれませんが、気付いたのなら、ケジメをつけるべきなのでは?」

考え込むように俯いた会長様。僕から触れるのは、親衛隊の掟に背くことになるから、無理だけれど、助言することなら、できる。

「不安なのでしたら、一緒に参りましょうか」

手に持っていたナイフを、花の木の根元に置いた。打開策を考えるまでもなく、多分生徒会会長様の親衛隊隊員は、落ち着くだろう。会長様と共に生徒会室へと向かいながら、そんな事を思った。

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2011.09.12


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