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陰鬱なまま、世界が消える。

たとえばそれを、君が望んでいなかったとしても。


幸野凌也<こうのりょうや>それが彼の名前だ。
僕は彼の事を観察していたし、彼もまた、僕のことを観察していたはずだ。
確かな事実は知らない。今言えることは、憶測と推測でしかない。ただその憶測で言えば。このままで行けば、彼は僕の為に。僕の所為で僕の手により息絶えることになっている。そうは出来ないと思ったのが、数時間後。つまるところ、今現在僕は数時間前に戻ってきている。

「………また君か」
「やぁ、ご機嫌いかが。死神さん」

この死神と知り合ったのは何時だっただろうか。昔だった気もするし、未来だった気もする。現在でないことだけは、確かだ。
時間認識が良いとは言いがたい僕は、毎回今自分がいる時間軸がどこなのかを確認する。次いで、その時間に“僕”が存在しているかどうかも。
もしも仮に、僕がいるようならば、今この場所にいる僕は僕に遭遇しないようにしなければならない。もし、遭遇してしまえばその時点でジ・エンド。世界が終わる。
最も、幸野と出会ってしまった時点でも、同様の事が言える。

「その呼び方は、やめてくれないか」

名前で呼んでほしい。そう言われるものの、過去や未来で“死神の名”が変動することを前もって知っている僕は、あえて彼の事を名前で呼ばず、敬称で呼んでいる。というより、死神の名だけは何度聞いても覚える事が出来ない。まるでノイズがかかっているかのようにざざざ。という音をかき消すようなノイズがかかり、明瞭に聞こえてこない。
そんな彼の姿はもちろん、僕にしか見えないし、声も僕にしか聞こえていない。僕とおなじ能力を持っている人がいればまた、話は別かもしれないが。今のところ、そんな人には会ったことがない。

「やめておくよ」

扨て、僕は阻止しなければならない。彼が彼のまま存在し続けるために“僕”と彼が出会う事を阻止し、且、自分の存在を消さなくてはいけない。
元々、あってはいけない存在だったのだからそんな僕が消えるのを惜しむ人がいてはいけないのだ。
例え、過去の彼と僕が恋人関係であったとしても。未来の僕と彼が恋人関係であったとしても。現在の彼と僕が、恋人関係であったとしても、だ。

「今回はうまくいくといいな」

思わず呟いてしまった言葉に、死神は顔を歪めた。

「君はいつもその道を選ぶ」
「そう。そして、失敗するんだ」

死神の言葉に頷き、それでも僕は、笑みを浮かべ続けた。

「でも今回は、うまくいくかも」

死神と会う直前に、壊してきた“僕”を思い出しながら、僕は言った。僕は人でないのだから、死ぬのではなく、壊すと言った方が正しい。かといって、機械なのかと言えばそう言うわけでもない。不可解異分子。この世界に存在してはいけなかったはずの存在が、僕だった。
今回の存在してはいけないはずの存在である“僕”はこの世界で言うところの人間であり、性別は男だった。何を考えて男を選んだのかは分からないが、事実は変わらない。ただ、人間でありながら人間ではないために、その存在は容易に消すことが出来る。殺すわけではない、完全なる完璧なる、消失だ。

「さっき、壊してきたよ」

これでもう、彼は“僕”の事を覚えていないだろうし、彼に僕が出会わなければ、世界は続く。
笑いながら言えば、死神は確かに、顔を歪めた。その表情に見覚えがある様な気がしたものの、気にせずに自分の核を壊す為、フェンスを飛び越えた。

「―――――――、」

壊れる間際、彼の声を聴いた気がした。だけど今度こそ、きっと世界は消えるのだろう。僕の世界だけが、消滅する。

(どうか、君だけは幸せに)

2012.04.09


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