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アホなお話

※編入生→同室者


「どうやら俺っていう奴は、迷惑な奴らしい」
「へ?」

今日も今日とて生徒会役員やそのほかの皆様と楽しくやってきたのではなかろうかと思っていた遠野の耳に、そんな言葉が聞こえてきた。
その言葉が聞こえた瞬間、珍しくも遠野はそう声を出していた。
いつもなら返ってこない声を聞き、遠野の同室者であり数週間前にこの学園にきた美少年は、顔を輝かせる。
正直なところ、まぶしい。と、遠野は思った。

「迷惑なのか?!俺は!どうなんだよ遥!」

編入生と同室者になってからというもの、やたらと周囲は騒がしい。
が、実害らしい実害は受けていない。
遠野はそう思っているのだが、実際には悪意を向けられ、怪我をさせられそうなっていること多数。
その都度クラスメイトはハラハラしていたのだが、遠野はそれにも気付いてはいなかった。

編入生に腕を掴まれ引きずられているような状態である上にその周囲の人間に睨まれている場面でも、そのことに気付いているのかいないのか。
遠野の視線は常に、明後日な方向を向いていた。
当然、編入生の言葉に対しても大した返事をしてはいない。
編入生の周囲の人間には「こいつのことが好きじゃないのか」と聞かれたことが何回もあったものの、その都度「特には」とやっとの思いで返す程度で、その後の彼等の動向に注意を払うこともなく。

生徒会役員の嫌味は聞こえていないかのごとく聞き流し。
(おそらく、十中八九聞いてはいなかった)

生徒会役員の攻撃はそうとはわからないように回避し。
(一度など足を引っ掛けようとしていた本人が転んでいた)

親衛隊からの呼出には応じず。
(痺れを切らした親衛隊員が教室まで遠野に会いに来る事態になっていた)

親衛隊からの嫌がらせにも動じず。
(動じるどころか、逆に関心すらしている節があった)

初期の頃には、机に暴言が記されていても仏壇に供えるような花が置かれていても、どの場合にしても特に何も言わず、騒いでいる編入生をそのままにその机に突っ伏して、眠り始めていた。
それを見た編入生は生徒会役員に宥められ、生徒会室へと連れ去られてしまったのだが、その後目を覚ました遠野は少しだけざわついている教室を見まわした後、不思議そうな表情を浮かべ、再び机に突っ伏し、寝入るだけであり、教師に起こされ嫌味を言われたところで生返事を返すだけだった。

またある時には手紙にカッターが仕込まれており、封を開けた瞬間、怪我をしたものの。
遠野は慌てるでもなく、小さな声で呟いていた。
『これ、一個ずつにするの大変だっただろうな…』と。
それを聞いた編入生がそういう問題じゃねー!と叫んだ時には、クラスメイトは全員、珍しくもその通りだと思ったのだが、遠野はそのことには気付いてはいなかった。

暖簾に腕押し、糠に釘。馬の耳に念仏。

まさにそんな感じだった遠野と編入生の信者、その信者の親衛隊との攻防とは言えない攻防は、ここ最近になって落ち着いてきている。
遠野のクラスメイトにしてみれば、よくも反応が少しもない相手にここまで嫌がらせを続けることができたなという感想なのだが、遠野にしてみれば知らないうちに何かが始まり、知らないうちに終わっていた。と言ったところなのだろう。

つまるところ、実害を受けていないのではなく、受けていたことに気付かないうちにすべてが終わっていたと言った方が、正しい。

遠野遥は驚くほどに、鈍かった。

「さあ」

首根っこをつかんでゆするのはぜひともやめてほしものだ。
そんなことを考えながら、遠野は口を開く。

「自分で考えなよ、それくらい」
「なんでそんなに冷たいんだよ遥は!?」

心外だ。と睨みつけた遠野の目の前には、涙目の美少年がいる。

「………冷たくしてるつもりはないんだけど」

ていうか、今日生徒会のみなさんとかどうしたんだよ。
そう尋ねた遠野に、いい笑顔で追い出した!と、美少年が言った。

「あ、そう。大丈夫なのそれ。後でなんか言われない?」
「え?あ、へ、平気だ!そんなことより!」
「いやいや、あのさあ、君、気付いてると思うけどあの方たちは君のことが好きなんだよ。わかる?ライクじゃなくて、ラブ。だからさあ、まあ、そう邪険にしないで考えてあげたら?友達から始まる恋ってのもあるんじゃないかな」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ」

何も考えていないように見えた遠野はその実、編入生に付きまとっている周りの人たちの想いには気付いていた。
あそこまであからさまで気付かない方がどうかという話でもあるのだが。

「は、遥の、ばっかやろー!俺はっ俺はお前のことが好きなんだあああああああああああああっ」
「………え」

そう言って部屋から走り出て行ってしまった同室者が、どこに向かったのか、遠野には分からない。
また、追いかける理由もなく。

「編入生って、同性愛者だったんだ」

そう小さく呟くのみだった。

2015.02.16
たぶん遠野くん編入生の名前、忘れてる


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