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08 : 後始末
「あーあーあー、なんっつーことしてくれちゃってんの」
殺人鬼は嗤った。嗤いながら、怒っていた。これはボクの美的センスに反する。と、言いながら、模倣犯を見つめ、嗤う。笑いながら斬りつければ、相手の左側から鮮血が飛び散った。
「ボクが心底、欲しがってるのは、さ」
あの人だけ、なんだよね。
ニコリ。と、笑ったその先に、感情は見えない。斬りつけられた相手に自分の声が届いていないことを知りながら、殺人鬼は、嗤う。模倣犯だろうがなんだろうが、自分以外が彼のことを煩わせるのは疎ましい。妬ましい。彼は、自分の子とだけ気にしていればいいのだ。たとえ手段等が似通っていようが、ニセモノに彼が踊らされるのだけは、耐え難かった。
「…………お前、」
「あっ奇壱!」
会いたかった、マイハニー!そう言い、抱き着いた殺人鬼からは先程のような鋭利な空気は滲み出てはいない。路地裏で、二人。正確には、二人と死体が一人。
「―――やっぱり、お前じゃなかったんだな」
「へ?」
奇壱の言葉に目を瞬かせた殺人鬼は、次の瞬間にはにんまりと笑っていた。
「そりゃそうだよ」
解ってくれてるなんて。やっぱり君の事好きだなあ。そう言おうとした殺人鬼は口を開く前に、美味しそうに見えた奇壱の唇に噛み付いた。
この体を切り刻んで鮮血に塗れて、生温かい果実の様な血肉に触れて、全て総て、自分に取り込んでしまいたいと思うことがある。そうすることによって得るのは満足感。次いで、喪失感である事は分かり切っている。死んでいては、意味がない。生きて、自分と対峙していてこそ、意味がある。
奇壱に触れながら、殺人鬼は思う。
「――――――――ハッ」
貪り食うかのような口づけを終え、奇壱の表情を見た殺人鬼は、嬉しそうに笑った。
「奇壱、可愛い」
「―――――――男に言うべき台詞じゃない、な」
チラ。と、見たのが先程の殺めた男の残骸と、その男の作品であると気付いた殺人鬼は、眉を寄せ奇壱に囁いた。
「俺此処片付けてから行くから、さ」
先行って、ちゃんと待ってて。
懇願するかのように言った殺人鬼に帰ってきたのは、いつも通りの言葉だった。
2013.07.15