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開ける視界

※唐突に気付いてブチ切れてしまう話


周りが見えなくなる。とは、こういうことだったのか。唐突に開けた視界に、杜氏界(もりうじさかい)は信じられないものを眺めているかのように、目をパチパチと瞬かせ、転入生であり同室者でありトラブルメーカーである鷲尾相楽(わしおさがら)を見つめた。肩を掴まれ体を前後に揺すられているにも関わらず、いつものように抵抗するでもなく、杜氏はただ、自分の肩を掴んでいる鷲尾ではなく、天井を見上げていた。

「あー……」

その声にビクリ、と鷲尾は震えたが、杜氏は視野の狭かった自分に対して呆れていた。それはもう、思わず声が低くなってしまう程に。

「えーと、なんだったっけ?」

一度閉じた視界が開くと、世界はこんなにも変わって見える。鷲尾の代わりに自分の事を傷つけた親衛隊も傷ついており、学園はかろうじてその形を留めているだけ。生徒会も風紀もまともに機能していないらしい。と、噂には聞いていたものの、それを改めて理解できたように思える。ちらり、と周りを見渡せば、誰も彼もが傷ついている様な表情をしていた。きっと、加害者も被害者も何も、ないのだろう。そんなことを考えながら、杜氏はもう一度、鷲尾に尋ねる。

「なんだったっけ?俺が、すべての原因だって言ってたっけ、鷲尾は、そう思うんだ?」

そう言った杜氏から手を離した鷲尾は、小刻みに震えながら拳をきつく握った。鷲尾の後ろには彼の信者たちがいたが、今の杜氏はそれを気に掛けることもないと思っている為、笑いながら鷲尾を見据えた。笑っているにも関わらず冷え切った瞳で見つめられていることにさすがに気付いたのか、鷲尾は理解できないと言いたげな表情で杜氏を見つめていたが、それに対して杜氏は、溜息を返しただけだった。

「じゃあ、その原因である俺がこの学園を辞めたら、それ以降お前の身の回りで起こる“悪いコト”は、誰が、何が原因になるんだろうな?」
「それ、はっ!!」
「すべてお前が原因だ、鷲尾相楽。お前が来たから生徒会役員が恋に狂い風紀委員は対応が追いつかず機能しないような形になった。親衛隊に傷つけられた?その前にお前が親衛隊を傷つけた。一辺しか見ずにその一辺がすべてであると断言し、糾弾したのはほかでもないお前だ。生徒会役員に守られているお前に手が出せず、標的をお前といつも一緒にいる俺に切り替えた。その事を伝えた時、お前は『界は俺が守るから大丈夫だ!』と、言ったがお前がいつ俺を守ってくれた?守られてばかりのお前が、一体、いつ。お前は俺の事を護ってくれたことなど一度もないだろう。ああ、いい。そんなことは望んでなかったんだから気にするな。ところで。俺はお前に、自分から“一緒にいたい”と言ったことなんてあったか?いや、なかったはずだ。そこの考えなし共とは違って。だからお前は躍起になって、俺に付きまとってたんだろうな。その結果、今まで起きてきたことは全部俺の所為だ。と、きたか。どんだけだお前。何様のつもりだ。ああ、あー、そうだったな。お前には真っ向から正面から言わなきゃわからないんだっけか」

杜氏は息を吸い込み、まるで地を這うような声で鷲尾に告げた。

「俺はお前の事が、嫌いだ。理由を説明できないくらいに嫌いだ。憎いとすら思っている」

笑いながら言い放つ杜氏に対し、鷲尾は傷ついているかのように俯いた。いつもの様に泣き叫ばないことを不思議に思いながらも、その事については触れず、杜氏は続ける。

「よかったですね、生徒会の皆様。俺はこの学園を辞めることを決めたので、ライバルが一人、減りますよ?」

元からこの子の事なんか、ただの同室者。友人とすら思っていなかった俺ですけど。それと。お前が理事長の甥だからとかそんなことどうでもいいが。俺が退学するのを邪魔してきやがったらただじゃおかないから覚悟しておけ。そう続けた杜氏を、呆然としたように見つめる周囲の生徒は、何を思っていたのか。それを考えることもせず、別の事を杜氏は思った。ああ、最初からこうしておけば良かったのに、何故、今まで気付かなかったんだろう。気付けなかったんだろう。唐突に気付けたのは、何故なのか。そんなことを考えながら、笑みを一つ残して、杜氏はその場を後にした。

2011.11.23


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