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根岸色

2023/02/01
思い出したところで、何を、どうすることもできないのに、それでも、思ってしまう。
気が付けば、いつも通り、いつもの時間に、いつもの場所に。訪れてしまっている。


根岸色


鯉が、泳いでいる。

かつて、海が入り込んでいたとは思えないほどの、環境下で、泳いでいる。
こんなところまで海がきていたなんて、信じられないと笑いながら言えば、そんな事もあると思うんだよなあ、と、ゆうるりと笑った彼の事を、ぼんやりと思い出す。


「なぁにしてんの?」


声が聞こえた気がしたところで、振り返る事は、しない。
きっと、幻聴で、現実ではない。


鯉は、泳いでいる。


「なぁなぁ、無視?」


変わらず、餌を与えればそれにむらがい、口を開け、次々と。


―――大丈夫だから。


そう、呟いた。

きっと、彼は心配で声を掛けてきたのだろう。
声を掛けてきたという現象もきっと、夢幻なのだと、そう思う。
そう思わなければ、どうにかなってしまいそうだった。


―――あとおいなんて、しない。せいいっぱい、いきる。


どうやって生きていたらいいかなんて、分からないけれど。


『なんとなくでいいんだよ』
『生きてる理由なんて、分かってない人の方が多いよ』
『だけどおれは』


目を閉じればまだ、声が聞こえる気がしている。
そんなはずはなくて、ありえないはずで。


『お前が生きていてくれてる、それだけで、幸せ』


だからといって、なぜ、どうして。


「おまえがしんだら、」


どうして、おれが生きてる意味が、あるんだ。

呟いたところで答えはなく、ただ、視線の先には、先ほどから変わらず、鯉が、泳いでいた。




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