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納戸色
2023/02/09
退屈な店番をしていると、カランコロンと下駄の音が聞こえた。
季節外れなその音の持ち主は誰だろうかと気になって視線を上げれば、店先には少年と男がいた。
黒髪の少年が小さく色の名を呟く。
よく知ってるなと、赤髪の男が、笑った。
恐らくどちらかが、下駄を履いている。
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納戸色=
店先で足を止めた少年と男は、小声で、話をしている。
今日、店先に出した品はなんだっただろうかと考えたところで、思い出す。
納戸色の皿を、数点。
確かに、店先に並べた事を思い出し、なるほど先程の男が感心するはずだと、そんな事を思った。
「気に入ったなら買って帰るか?」
「今は…」
少年は男の問い掛けに、断ったようだった。
流石に店先である事を気にしてか、会話は小声でされている。
それでも、何故か、不思議と声が耳に届く。
それよりも、必要なものがあるから。
余裕が出てきたら。
男の問い掛けに、少年が答え、笑った。
見た目詐欺なのではないかと思う程確りとした答えに、声を掛けようと浮かせていた腰を、元に戻した。
それにしても小さな声が、何故これほどまでに聞こえるのだろうか。
いけないとは思うながらも、彼らの会話に耳を傾けてしまう。
やがて彼らは来た時と同様、カランコロンと、下駄の音と共に去っていった。