「キャハハハハハ!」
耳にきんきんと響く、小さな少女の笑い声。それを全身で受け止めながら、青年は穏やかな笑い顔を崩すことなく、白いエナメルの可愛らしい靴を、右頬にめり込ませていた。
ちなみに、左の頬は床とお友達だ。耳がつぶれる勢いで、べたりと床にくっついている。
「はは、痛いよ、リトル・レディ」
「あっははははは!穢らわしい身で何言ってんのォ?」
「はは、靴の底よりは綺麗なつもりなんだけどね、これでも」
「嘘よ、嘘、嘘!あんたに舐められたら靴が汚れちゃうわァ!」
真っ昼間の、ドールハウスのような、ファンシーな調度品が並ぶ部屋のなかで交わされる言葉。
少なくとも、この部屋の雰囲気には合わなかったし、そもそも状況がおかしいわけで。
「顔だけなら大好きよ、お・兄・さ・ん!」
「おや、それは光栄だね。でもそれなら何故、君は俺の右頬を、その愛らしい足で踏みつけているんだい?」
「愛故に、ってやつかしらァ?」
キャハハハハハ、と鼓膜を細かに震わせる、甲高く愉快そうな笑い声。フリル、レース、リボンがたっぷりの、胸焼けしそうなほど可愛らしい白のドレスの裾を揺らして、蜂蜜色の髪の少女は笑う。
そんな少女に踏みつけられながらも、チョコレートに似た、茶のベストを身にまとった青年は、やはり笑みを崩さない。不躾な行いも、失礼な行動にも、恥辱にまみれるような仕打ちにも、いつも、胡散臭くて穏やかな笑みを浮かべているだけだ。
「痛いよ、リトル・レディ」
「私は痛くないものォ」
「その通りだね」
見目の愛らしさから想像できないほど、この《小さな淑女》は狂暴だった。
この年頃の少女なら、「お気に入り」といえばぬいぐるみや服をあげるものだけれども、彼女の場合は全く別だ。彼女の「お気に入り」は、蝋燭のように白く、上品な艶のある二丁拳銃──というのだから恐ろしい。
少なくとも、小さな少女が持っていて良い代物ではない。大きな大人が持っていても問題ではあるのだが。
「ねえ、大きいピアスに興味はあるかしらァ?」
「ははは、頭に風穴をあける気かい? 残念ながら、そういうのはピアスとは言わないよ、リトル・レディ」
「ああら、そうなのォ?」
舌足らずな甘い声色で、少女は「お気に入り」を青年の頭につきつける。青年は恐れた様子も見せずに、ほんの少し目を細めただけだった。彼にとっては、よくあることで、よくある光景なのだから、今更驚くこともない。
「それにね、リトル・レディ? 君の銃は威力が高いからね。俺の頭に風穴が開くことはないよ」
スイカが弾けて君を赤く染めるだろうね、確実にね。
青年はさらりとそう口にして、銃口を掴んで逸らす。俺の血で君が赤く染まるのも良いかもしれないね──そう口にすれば、少女はひどく不愉快そうに顔をしかめた。
今日は彼の勝ち、である。
bkm