渡し守
渡し守
 年齢不詳、生死不明の女性。何百年も前の軍の破れた蒼いな軍服を身にまとい、大胆に開かれた胸元には死に装束のように真っ白なサラシを巻いている。炭のように黒い髪に、灯火のような橙色の瞳を持つ。
 血の気が通っていないかと思わせるほどの白い肌に、猫科の肉食獣のようなしなやかな身のこなし。唇には紅がうっすらとひかれている。

 名前などはなく、名乗る際には【渡し守】という、職業名らしきものしか名乗らない。それすらも通称であり、彼女が“何なのか”は誰の知るところでもない。
 その役目は“あの世とこの世を渡すものになること”であり、“奪われたものを取り戻すこと”らしい。

 彼女に襲撃されたら重体は必至、高い確率で死に至る。
 闇夜に紛れて人を襲うために、彼女が出没した地点の町や村はしばらくの間夜間外出禁止令が出される。被害者は【肉体的、魔力的に恵まれたもの】であることが多く、発見時には体の至る所を殴打された状態で見つかる。
 目撃者によると、彼女の武器は渡し船を漕ぐ“櫂”であり、ここから【渡し守】との通称が付けられるに至ったと思われる。

 言葉は通じるものの、会話を成り立たせる気はないらしく、半ば狂ったような印象を抱かせる。
 人の身ではあり得ないほどの身体能力を持ち、その体は傷をものともしない。痛覚がないのか、腕が折れようとお構いなしで襲ってくる。その正体は動く死体である、馬鹿力の狂人である、などと数多くの噂がある。

 彼女の周りには常に“灯火”があるという。

「こんばんは。私はあの世とこの世の【渡し守】。──君も私に“渡されて”みないかい? 何、渡し賃は君の命さ──遠慮することはない!」
「さあこの世に別れを! そして君は川を渡る! 私はその手助けをしよう! 朦朧とした意識に溺れ、命の川の底に沈め!」
「──おいしそうな獲物じゃないか。こんな暗い夜に道を歩いているなんて……渡し守に渡されてしまうよ?」

 


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