銀の龍

「い・く・わ・よ・!」

 両手に収めた“それ”がぎらりと剣呑に煌めく。
 戦場に似つかわしくない細い腕、しなやかな体。特注なのか何なのか、体をぴったりと覆う紺色の軍服は、“その女”の魅力的な体のラインを強調していた。
 舞い踊るは銀の髪、煌めくは青の瞳。
 どうみても非力そうなその身体で、その女はバズーカを“両手に持っていた”。
 成人男性ですら扱うのが難しい──というか、反動に負けることもある武器なのだが──。

「はぁい、いらっしゃい」

 甘ったるく伸びる語尾に追随するように、バズーカの弾は軌道を描いて戦場を飛ぶ。鼻を突く匂いがその女の元にも届いたが、女は気にもとめずにバズーカを連射し続ける。細い肩は壊れることなく、バズーカの反動にも耐えきっていた。
 嘘だろ、と動揺がはしるのは、何も敵の陣だけではない。初めてその女を見た新兵が、目をまん丸くして女の操る武器をみる。
 ちょっとした丸太くらいの太さはあるバズーカだ。両肩に担いで、バカバカ撃つような代物でもない。

 風に流れる銀の髪は、軽やかに愉しげにゆれている。
 武器の存在など感じさせない軽やかさで、その女は戦場を走っては撃ちまくっている。
 
「ば、化け物──」

 新兵の口から思わず出た言葉に、女は艶やかにほほえんだ。

「そうよぉ。私の名前、聞いたことないかしら──」

 ラピスラ。ぷるりとしたチェリーレッドの唇から紡がれた響きに、新兵はごくりと唾を飲み込む。
 ラピスラ。それは戦の魔女の名ではなかったか。

「化け物ってのも正解よ。私は人ではないから」

 にこり。血のように赤い唇が、柔らかく笑みを作り出す。
 敵でなくて良かったと、新兵は思う。
 人ならざる雰囲気が、女からは色濃く漂っていた。

「覚えておきなさい。私は貴方達の将と契りを交わし、この軍の勝利を約束する者」

 助けられたいのなら、龍の名前を呼びなさい。

「我が名はラピスラ。──変化の龍よ」

 青い軍服に赤い唇。銀の髪はたなびき、黒金の武器は火を噴いて。

 戦の魔女は微笑んで、敵の陣へと駆けていく。



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