クラッシャー・リトルレディ 2


「素敵な白粉ね、お兄さん?」
きゃたきゃたと笑う少女が、綺麗にセッティングされたテーブルの上で足をぶらぶらと揺らす。
白いレースのテーブルクロスの上には、宝石のようなプチ・フールが、豪奢な皿に乗せられて並べられていた。
その皿の隣に、ケーキでもない少女が並ぶ。クリームのように白く、ふんわりとしたドレスの裾がひらひらと揺れていた。
「全くだね、リトル・レディ?」
「ほぉんと、面白くって笑っちゃうわァ!」
にこやかに少女にそう返す青年の顔は真っ白だ。
鳶色のさらりとした髪には、べたりと生クリームが張り付き、ところどころにスポンジのような、ふんわりしたケーキの欠片がくっついている。
青年の顔の方には満遍なく生クリームが広がっていて、片側の頬にはチークのように、潰れた苺の赤い果汁が散っていた。
仕立ての良さそうなチョコレート色のベストには、雪のようにスポンジとクリームが積もっている。

「しかしだ――ケーキが投擲武器ではないこと、知っていたよね?リトル・レディ?」
「ああら、そうだったかしらァ?」
皿の上に綺麗に並べられた、生クリームたっぷりのプチ・フールを一つ摘まんで、少女は愉しそうに笑いながらそれをかじる。
クリームのような白いドレスが、少女が揺らす足に合わせて、ふわりと捲れていた。
「そうなんだよ、リトル・レディ。ケーキは人の顔に投げるべきじゃないんだ。俺の記憶だと、このやり取りは三回目だと思うけど?」
「覚えてないわよそんなことォ。貴方の顔がお皿みたいだからいけないんじゃないかしらァ?」
テーブルの上でぶらぶらと足を揺らしながら、あどけない少女は小さなケーキを味わっている。
青年はそれをにこやかに見守りながら、「とんだお茶会だね」と一言口にした。
ドールハウスのように愛らしい装飾が為された部屋の中には、人形のような少女と、ケーキまみれの青年しかいない。
テーブルの上には二人ぶんのティーセット、そしてお茶菓子の様々なケーキ。
そのうちの一つは投擲武器として扱われ、残りは少女が摘まんでいる。
レースとリボン、繊細な刺繍が品よく入った白いドレスの前で、青年は片膝をついていた。
アンティークなドールハウスを思わせる部屋の中、ビスクドールにも負けず劣らずの美しい、幼い少女が可愛らしく笑っている。
「ケーキ好きの君だ、ケーキまみれのこの俺も、うまく処理してくれるのかい?」
「何馬鹿なこと言ってるのォ?雑菌まみれのケーキなんて、口にしたくもないに決まってるわァ」
「ははは、冗談だよ、リトル・レディ。その金属の筒をしまってくれるかい?可愛い君には不釣り合いだからね」
心底穢らわしいものを見るような顔をして、少女は蝋燭のように白い銃を、青年に躊躇いもなく突きつける。少女の苺色の瞳が、きりりと細く引き締まった。
青年はそれを笑っていなす。柔らかなヘイゼルの瞳が、真っ直ぐに少女の赤に映り込む。
少女はしばらく青年を睨み付け、それから興味をなくしたように、ふっと視線をそらした。
食べていたプチ・フールがなくなったらしい。
クリームまみれの青年をそっちのけに、今度は何を食べようか――と、皿を見つめて微笑んでいる。
マカロンのような、淡いピンクの爪が白い皿を行ったり来たりして、宝石のようなそれをじっくりと品定めていた。
「俺にもひとつ取ってくれるかな、リトル・レディ?」
「はぁい。じゃあこれでも食べてなさいよォ」
ひどくいい加減に青年に投げられたのは、銀の匙だった。
匙はクリームだらけの青年の頭に当たると、クリームとスポンジケーキを引っかける様にして肩に落ち、それから、肩にかかった残骸を、ベストに塗り広げるようにして床に落ち着いた。
からん、と物悲しい音と共に、少女が甘く柔らかい声で笑いころげる。
「こればかりは俺にも食べられそうにないよ、リトル・レディ」
「あ、な、た、の!肩に乗ったのでもたべてたらどうかしらァ!」
「相変わらず扱いが酷いね?リトル・レディ」
 あったりまえよォ、幼児性愛者に興味はないもの――と、舌ったらずなせいで甘ったるく幼い口調で少女はそう言い、紅茶のカップを手にすると、とろりとした色のその白磁のカップに、なみなみと紅茶を淹れた。
 それをそのまま青年の目の前まで持っていく。
「おや、鞭の後には飴なのかい?」
「スイーツには紅茶が必要でしょ?」
 これはどうも――と受け取ろうとした青年の手を、少女の白いエナメルの靴が蹴飛ばした。
「おや」
「あなたにあげるなんて、一言もいってないじゃなぁい?」
 「【スイーツ】には【紅茶が必要】でしょ?」と少女は歌うようにそう言うと、青年の顔面めがけてその深い栗色の液体をぶちまけた。
「あつっ」
「ほぉら、クリームが全部落ちたじゃない――よかったわねぇ、お兄さん!」
 青年のチョコレート色のベストの下、砂糖のように白かったベストが、じわじわと紅茶色に染まった。


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bkm


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