がしゃあん、と大きな音を立てて、色とりどりの綺麗なガラスの欠片が、宝石のように煌きながら降り注ぐ。
美しき女神を模していた大きな古びたステンドグラスは、美しき破片の雨となって、バラバラと薄汚い礼拝堂の床に零れ落ちた。
女神の顔の中心から崩れたステンドグラスの向こう側には、赤く懐かしい夕日が沈んでいる。
果物の色にも、血潮の色のようにも見えるその光を灯し、硝子はほの赤く煌いていた。
「あらァ、別の人の顔撃っちゃったわァ」
真っ赤な光の中、真っ白なドレスを身に纏った少女が、かつん、かつんと靴のヒールを響かせて、美しい硝子の破片を踏みにじる。
その手には、ドレスと同じように真っ白な拳銃が二丁収められていて、その白い銃身を橙の光に染めていた。
少女が歩みを進めるたびに空気は動き、少女に纏わりつく硝煙の香りもふわりとゆれる。
あっははは、と少女の酷く楽しそうな、歪んだ笑い声が埃っぽい礼拝堂にこだました。
楽しそうに笑う少女のかんばせは、丁寧に作られた陶器の人形を思い起こさせるほどに美しい。
なめらかで白い肌は夕日に染まっているものの、小さなあご、きらりと光る宝石のような輝きの眼、薄く開いた花びらのような唇。そこから覗く、真珠のように小さく白い歯は、小さな顎にも綺麗に収まっている。
柔らかくまいてある金髪も、蜂蜜のようなとろりとした光を灯していた。
「ちょこまかちょこまか逃げないで頂戴よォ」
甘ったるい舌足らずな口調で、少女が拳銃をくるりと指先に引っ掛けて回した。
一回転して再び合わせられた銃口に、鉄の筒の先の男がびくりと体を揺らす。
少女はそれを目にすると、ほんのりと甘い笑みを口元に浮かべて、だいじょうぶよ、と呟いた。
夕日が少女を真っ赤に染めている。
顔から胸にかけて砕かれた硝子の女神が、歪なその姿のまま、神々しく夕日を受けて光り輝いていた。
「ゆっくり優しく仕留めてあ・げ・る、からァ」
じゃきん、と無慈悲な温度のない音を立てて、銃身がゆっくりと近づく。
恐怖にうち勝てなかった男は縫い付けられたように、その場に立ち尽くす。
男には、「逃げられるだろう」とは、思えなかった。
――人形のように美しい少女が手にした、真っ白なそれが咆哮を上げる。
bkm