絶対妹には近づけたくない奴だなあと思った。
やたら仕立ての良さそうな白いコートに、上品そうな顔。どこかの王子様ですかー?って聞きたくなるようなそんな顔。無駄に煌びやかと言うか。俺達みたいな銀髪に、青い目。でもなんか、その顔が胡散臭いというか、完璧すぎてて気持ち悪いというか。
まあ、男である時点でネルには近づけたくないんだけど。
「お二人とも、旅の方でしょうか?」
無害そうな笑みを浮かべたまま、上品ぶった言葉を紡ぐ男。白い外套に刻まれた、金色の刺繍が無駄に豪華だ。
微笑む顔は上品そうだし、着ているものも上等そうに見える。
なんでこんな人が話しかけてくるんだろう。
少女と少年は顔を見合わせた。
「ああ、怪しいものではありません。旅の商人とでも思ってくれれば」
「はあ……」
怪しいものではありません、と言われてはあそうですか、と納得する人間はいるのだろうかと少年は思う。
しかも、自分たちに積極的に声をかけてくるような奴は。
「ギル、」
「ネル……」
少年と少女は顔を見合わせる。
二人で同じタイミングで頷いた。
くるりと怪しい男から背を向けて、同時に走り出す。
あ、と間抜けな声が二人の背後から聞こえた。
理由があって旅をしている二人には、簡単に声をかけてくる奴というのは信用ができない。
特に、商人といっておきながら煌びやかな格好をしている男なんかは。
職業と服装があっていないなんて、騙すにしたって適当すぎる。
変な奴に声をかけられちゃったね、と隣を歩く少女に声をかければ、大体同じ答えが返ってきた。
「何だったのかなあの人」
「何だったんだろうね」
ふう、と同じようにため息をついて、二人は並んで歩き始める。
行く先は決めていない。
「お、お嬢さんにそのお供」
「はあああ!?」
よう、と陽気に手を振ってきた男に、ギルが指を突きつけて叫んだのは仕方がなかった。
訳の分からない怪しい男を振り切り、別の町へと向かった二人の前に現れたのは──あの、訳の分からない怪しい男だ。
ただ、前回会ったときのようなあの口調ではなく──粗野で乱暴で適当な、およそ見た目とはかけ離れているそれ。
なんでアンタここに、と不審者を見るような目で男を見つめたギルに、「逃げられると追いたくなるだろ?」と男はウィンクをひとつ。
「きもちわるっ……」と思わず漏れた言葉に、ははは、と大して気にしてもいないような笑いが耳に届く。
「冗談だっての。最近のガキは冗談も通じねえのか?
「だってアンタ不審者っぽいから……」
「おいおい、こんな色男捕まえて“不審者”か? 俺の魅力も分かんねえなんざ、まだまだだな」
「自分で“色男”って言ってる時点でだめなんじゃないかなあ……」
ネルがぼそりとこぼした言葉にはがっくりとうなだれ、手厳しいぜ、お嬢さん……と男は苦笑を漏らす。
とにかくあぶなさそうだとネルを自分の後ろに隠し、ギルは男を睨みつけた。
「で、アンタ何の用……?」
「まあそんな怖い顔すんなよ。お前達に用があったわけじゃねえから。まあ今はあるんだけど」
「は?」
「あの時は何か面白そうだから声をかけただけだ。逃げられたから追ったけどな」
「えええ……」
ウィンクをしながら話すそれはあまりにどうしようもない。
同業者だし仲良くしようぜ、と軽快に笑いながら、男はネルの方にその手を差し出した。握手を求めているらしい。
思わず握手をしようとしたネルの手をギルはひっつかみ、「不審者がうつる!」とだけ叫ぶ。
「大体、同業者って……」
「あん? ああ……ほら、吸血鬼専門の退治屋」
真面目そうな顔で“退治屋”と発した男は、それからすぐにニヤリと口角をつり上げる。
「現在休職中だけどな?」
永久に休職しようかとも思ってるけど。
そう告げた男に、それって……とネルが真顔でつっこむ。
「無職ってこと?」と。
「無職じゃないぜ、お嬢さん。むしろ今は適職を見つけたと思ってる」
「はあ……そうですか?」
「お嬢さんのナイトに立候補。どう?」
ウィンクと共に、恭しくネルの手の甲に口付けをひとつ。あまりにも手慣れていたそれに、反応するのが遅れ、二人は一瞬固まった。
「は、はんたーい!反対!反対!何を言われても反対!何でアンタがネルのナイトとか言っちゃってんの!? ネルを守るのは俺だけで良いから!」
「あ? じゃあ、オマケでお前も守ってやるから。十分の一くらいの確率で」
「そんな適当なナイトがいると思ってんの!?」
「男なら自分で身の安全くらい護れよー?」
ははは、と軽く笑う男にぎゃーぎゃーと噛みつくギル。
その頭をよしよしといい加減に撫でて、男はにこりと笑った。
「一番おいしいところは譲ってやるから。なあ、お兄さん?」
ニックだ、これから頼むぜ。
最後の最後に無理やり名乗った男に突っ込む気力も失せる。
──おいしいところは譲ってやるから、ってつまり肝心なところでは仕事をしないってことだよなあ……
突っ込むのを止めたギルに、「嫌だっつってもついて行くけどな」と宣言した男は、宣言通りにその後も二人のあとをついて歩くのだった。
***
たっ……高瀬良さんのお誕生日って聞いたから……_(:3 」∠)_
ゴメンナサイゴメンナサイ無断で拉致してゴメンナサイ
悪気はないのです……